「あ、そういえば」

イルミと別れてクロロ達と合流したナマエは、無事門を出た辺りで、思い出したように声を上げた。

「どうした?」

隣にいたクロロが、ナマエの顔を見る。ナマエはきょろきょろとメンバーを確認してから、口を開いた。

「ヒソカは?わたし、記憶がなかった間に、ヒソカに会ったの」

ヒソカを忘れていたとは言え、ヒソカさん、なんて呼んでしまったので、本当はナマエも会いたくはないが、ヒソカがワンダーグロウのヒントをくれなければ、ナマエは死んでいたかもしれない。それを思い出したナマエは、お礼を言おうと思ったのだが、今ナマエを救出に来てくれたメンバーにはいないようだった。一方クロロは、ナマエの情報を教えてもらった借りをヒソカに返さなければならないということを思い出し、少し暗い顔をした。

「ああ、ヒソカからもナマエと会ったとは聞いている。今はどこにいるかわからないが、そのうち俺に連絡が入ると思う」
「どうして団長に?」

クロロは一度、嫌そうな顔をしてから、事情を説明した。

「ええっ!あのヒソカに借りを…!?ご、ごめんね、わたしの為に…」
「ナマエは気にするな、あの状況では仕方なかった…」

そう言いつつも、クロロの顔は嫌そうに歪んでいる。

「あの変態バトル狂のことだから、団長ひでぇこと要求されるかもしれねーぜ」
「変態バトル狂って酷いなぁ、フィンクス」

背後から聞こえた声に、全員が一斉に振り返った。そこにいたのはニヤニヤした、

「ヒソカ!」
「あれナマエ、ヒソカさんって呼んでくれないのかい?」

ナマエはぐ、と言葉に詰まり、少し赤くなった。忘れていてくれたら、と思っていたが、やっぱりしっかり覚えられていた。

「ヒソカ…連絡を入れるんじゃなかったのか」
「うん、でも面倒だから直接来たのさ」

ニヤニヤしているヒソカの前に、面倒くさそうにクロロが進み出た。

「それで、情報の代償だが…」
「ああ、それ、もういいよ」
「…は?」
「いいものを見せてもらったからね」

苦々しい顔をしてうつ向いていたクロロが、顔を上げた。ニヤニヤ顔と目が合う。

「クロロの失恋の瞬間の顔なんて、貴重なものが見れた」
「…!お前、いつから見て…」
「大体一部始終見てたよ。気付いてなかったのかい?クロロ」

クロロは更に苦い顔で、それじゃあねと去っていくヒソカを見た。一方団員達は、見てはいけないものを見てしまったかのように、少し目線を逸らしている。その後の長い沈黙を破ったのは、遠慮がちなノブナガの言葉だった。

「よ、良かったじゃねぇか団長、無理な要求されなくて…」
「少し黙ってくれないか、ノブナガ」

痛々しい笑顔で顔を上げたクロロは、ゆっくりとノブナガを視界に捉える。ノブナガはクロロと目が合った瞬間びくっとしてから、頷いた。そうして再び、訪れた沈黙を破ったのは、今度はナマエだった。

「団長…クロロ、わたしは嬉しかったよ、クロロがそこまでしてわたしのことを助けようとしてくれて」
「ナマエ…」
「ずっと昔から、クロロはわたしの中で、一番大きな存在なの」

痛々しかったクロロの表情が、いつもの彼のものに戻りつつあった。ナマエはにっこり笑って、もう一言、付け足す。

「わたしにとって、クロロはお父さんみたいな存在なのかも」

クロロの表情は、再び凍り付いたように、固まった。この後アジトに帰るまで、クロロは立ち直ることができなかったという。



affettuoso


(愛情を込めて!)
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