そして、リングには無数のヒビが入り、粉々に砕けた。砕ける瞬間、辺りには人間の悲痛な叫び声の様な音が響いた。それはリングの割れる音だった。砕けた無数のリングの破片は、黒いもやの様にしばらく空中に漂った後、生き物のようにうねり、すごいスピードでナマエの方に向かって来た。

「!」

咄嗟にイルミが、ナマエを自分の後ろに隠し、壁を作る。しかしリングの破片はふわりとイルミを通り過ぎ、ナマエの体を覆ってしまった。

「やだ…!」

ナマエは両腕を振り回して、破片を振り払おうとするが、粒子状に砕けてしまったそれに効果はない。助け出そうとしたイルミの肩を、クロロが掴んで止めた。イルミはクロロに鋭い視線を向けたが、クロロの静かな殺気に動きを止めた。

「た、助け…」

黒いもやの中でもがいていたナマエの動きが、声が、止まった。破片が、ナマエの口から体内に入っていく。そうして全てがなまえの体内に入りきった後、座り込んでいたナマエの体が突然倒れていった。イルミがクロロの手を振りきって、床に倒れる直前にその体を支える。クロロは今度は止めようとせず、意識を失ったナマエを見つめていた。

「クロロ、説明してよ」

イルミはぐったりとしたナマエからクロロに視線を移した。クロロはふぅ、とため息をついてから頷いた。

「ナマエは元々俺達の仲間だったんだ」

言いながら、廊下に座る。いくらクロロでも、相当な量のオーラをリングに吸われた今は、かなりの疲労感に襲われているのだろう。少し不安そうに団長を見つめる団員達の中には、いつの間にかマチとパクノダ、ウボォーとノブナガも混ざっていた。

「今から一年と少し前、俺達はパンドラリングという指輪を狙っていた。それに込められていた念で、ナマエは記憶を失い、どこかに飛ばされたんだ」
「ふーん、それでうちの庭にいたのか」

イルミは抱えたナマエをじっと見た。庭で見つけた時より少し髪は伸びたが、あまり変わっていない。

「で、今のは?なんでいきなり気を失ったわけ?あの黒い煙はなんなの?」
「黒いものは、正に今言ったリングだ。古本屋で見つけた文献に、リングの念を解く唯一の方法が書いてあったんだ」

クロロは、さっきまでリングを握っていた両手を見ながら、再び話だす。

「それは、念を解こうとする者の命と引き換え、というものだった」
「…クロロ死んでないじゃん」
「俺だからだよ。普通なら、一般人のオーラ、つまり生命力を全て吸いきったくらいで、リングの方が耐えられなくなって割れるんだ。でも俺は、普通よりオーラの量が多いから、死なないんだ」
「なんかセコい」

クロロは苦笑いした。しかしそうしている間にも、皆の意識はナマエに向いている。ナマエはなかなか目を覚まさなかった。

「ねぇその文献って、本当に合ってるの?ナマエ死んでない?」

イルミがそっと、ナマエの体を揺すった。すると、今まで固く閉じられていたナマエの瞼が、ぴくっと動いた。見ていたマチが、思わずあっ、と声を上げた。イルミが揺するのを止めて、声をかける。

「ナマエ?」

ナマエは2、3回、少し苦しそうにうめくと、ゆっくりとイルミの腕の中から起き上がった。そうして、寝起きのように伸びをして、目を擦って、ようやく周りを見た。その場にいた全員が、じっとナマエを見つめている。ナマエはきょろきょろと全員を見回した後、一番近くにいたイルミに視線を定めると、口を開いた。

「ええと…初めまして、ここはどこですか?」



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