パンドラリング、と呼ばれる真っ黒な指輪がある。例えるなら全く光の届かない深海のような、深い絶望の底のような、そんな黒。それには作った人の強い強い、憎悪の念が込められているという。
あるひ、もりのなか
イルミは仕事を終えて、家の庭を歩いていた。庭と言っても広大な森で、並の人間では入った時点でペットのミケに食い殺されてしまうような所だ。屋敷の関係者以外がいるはずがない。しかしイルミは、そんな森の中、確かに人の気配を感じた。
(急に現れた?)
イルミは屋敷に向かっていた足を、気配を感じた方向に向けた。自分の周りに常に気を遣っているイルミだったが、確かにその気配は、突然現れたように感じた。
(「絶」してたのかな)
そんなことを考えながら、イルミはガサッと目の前の草むらをかきわけた。そこは少し開けた空間があって、一人の女が倒れていた。見た感じ外傷はないようだったが、どうやら意識を失っているらしく、動き出す気配はない。
「ねえ、生きてるの」
横に立って靴の先でつついてみても、反応は返ってこない。ゾルディック家の庭の奥まで無傷で入るなどどんな実力者かと思ったのだけど。つまらない、そう思ったイルミはナイフを取り出して、戸惑うことなくそれを女の胸に向けて振り下ろした。
「…なんだ、起きれたの」
ちぇ、と小さく舌打ちをして、イルミは地面に深々と突き刺さったナイフを引き抜いた。倒れていた女は肩で息をしながら、木に体を預けた状態で、やっとのことで立っているようだった。
「なんでここにいたの?」
イルミが改めて女に一歩近付いたところで、女は突然、支えを失った人形のように地面に崩れ落ちた。元々体力の限界だったのだろうが、イルミの殺気を感じて本能的に体が反応していたのだろう。イルミは再び倒れた女に近寄ると、しばらくじっと見つめてから、ナイフをしまった。そして空いた両手で軽々と女を担ぎ上げると、また屋敷までの道を歩き出した。
(興味が、沸いた)
くまさんに、であった!