ガサッと音がして、吹っ飛ばされた男が立ち上がった。ナマエは素早くダーツに近付き、それを拾い上げると、男を睨み付ける。

「テメェ…!」

ナイフを握って飛びかかって来る男。怒りで冷静さを失っているようだった。ナマエはその攻撃を避けると、男の背後に立った。

「遅いです!」

男の首にダーツを刺す。木々が頭上を覆ってしまっている庭では、影ができないのだ。男は何か喚きながら、暴れた。ナマエはダーツを引き抜いた。

「それ、神経麻痺する毒が塗ってあるんです。立てなくなりますよ!」

その効果は、昨日ナマエが身を持って体験していた。男はナイフを落とし、倒れる。半開きの目でナマエを睨むが、上手く喋ることができないようだ。

「屋敷に連れて帰ればいいのかな…」

縛る物も何もないので、麻痺がきれてしまう前にどうにかしなければいけない。悩んでいると、突然何かの気配を感じた。それが誰かと確認する前に、目の前の男の首が、体から離れてごろんと転がった。驚いて顔を上げれば、立っていたのはシルバだった。

「し、シルバさん?!」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですけど…どうしてここに?」
「仕事に行く途中だ」

シルバは執事に後片付けしておくよう電話をかけると、ぼけっとしていたナマエの頭にぽん、と手を乗せた。

「ありがとう」
「え…な、何がですか?」
「侵入者の排除だ。門を開けてまで入ってくるような馬鹿は、最近はいなかったからな」
「あー…はい」

ナマエは曖昧に頷いた。実際に殺したのはシルバなので、正しくは排除したとは言えないが、一応貢献したのは確かだ。シルバはそのままナマエの頭をくしゃっと撫でると、門の方へ向かって行った。ナマエは照れたような表情で、撫でられた頭を触る。イルミと違って微笑みながら頭を撫でてくれるシルバに、ナマエは思わずドキドキしてしまった。

「し、シルバさんって、かっこいい…」
「ナマエ様?」

ナマエはギクリとして、声の方を向いた。眼鏡にスーツが決まっている、執事長のゴトーだ。たった今呟いた言葉を聞かれてはいないかとヒヤヒヤしたが、ゴトーは何も気にせず近付いてくる。どうやら聞こえていなかったようだ。

「こんなところにいらっしゃったのですか。お怪我はありませんか?」
「あ、えーと…首を少し」

くいっ、と上を向いて、首を見せる。体を念のロープで拘束されていたときにナイフを押し付けられてできた傷だ。ゴトーは傷を見ると、片付けようとしていた死体を放り出した。

「結構出血していますね。すぐに処置致します。屋敷へ戻りましょう」
「ありがとうございます…あの、あの人は?」
「ミケにやればいいでしょう」

ゴトーはナマエの前に立って、歩き始めた。





処置を終えたナマエは、ゴトーに礼を言って、イルミの部屋に戻った。窓際に座って考えるのは、やはり念のことだ。

(さっき使った念が、きっと"ワンダーグロウ"だ)

ナマエは自分の手の平を見つめた。あの時は無意識で使ったが、感覚は今でもわかる。数週間練習すれば、使えるようになれそうだった。しかし、握りしめた小さな草が一瞬にして巨木になったその能力は、上手く使えば戦闘にもかなり使えるのだろうが、ナマエにはどうしても戦闘向きの能力とは思えなかった。

(例え"ワンダーグロウ"が使えるようになっても、戦闘で使うのは"影の支配者"とダーツ、それからイルミさんとの特訓で鍛えられた体術が主だろうな)

そこまでで"ワンダーグロウ"のことを考えるのを止めたナマエは、もうしばらくは屋敷から出ないぞ!と一人心に誓い、窓を閉めるのだった。



ワンダーグロウ!
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