翌日、結局3時を回った辺りで寝てしまったナマエは、キルアの部屋で目覚めた。横ではコントローラーを持ったままのキルアがまだ眠っている。テレビはレーシングゲームの車を選ぶ画面がついたままだ。とりあえず眠れたことにほっとしたナマエは、起き上がって服を整えた。ナマエの動く気配に、キルアも体を起こす。

「あ、はよーナマエ」
「おはようキルアくん」
「んー…今何時?」
「えーと、8時」
「うげぇ、もうすぐ仕事じゃん!朝飯食お!」
「え、着替え…」
「部屋に運んでもらうからいーよ」

メイドに、家族には内緒で!と念を押してキルアは朝食を頼んだ。それからすぐに運ばれて来たスープを一口飲んだナマエは、スプーン取り落とす。

「どうした?」
「手、うごか、な…」
「あー、今日から新しい毒?麻痺する系のやつかな」
「た、食べ、れな…ひ…」
「慣れるまではしょーがないだろ。オレ先行くな!」
「ひょんな…!」
「あはは、頑張れよ!」

体が動かなくなってしまったナマエを置いて笑顔で出ていってしまうキルアを見て、イルミとの血の繋がりを感じた。食器を片付けに入ってきたメイドもあくまでナマエにはノータッチだ。しばらく経ってからようやく手足が動くようになったナマエは、なんとか扉までたどり着く。

「も、や…」

体重をそのままドアノブにかけて、倒れ込むように扉を開く。そのまま一息ついて顔を上げると、目の前に人の顔があり、思わず小さな悲鳴を上げた。

「ひゃ!」
「…ナマエ姉さま?」

不思議そうな顔でナマエを見上げていたのは、着物を着た可愛らしい少年。

「か、カルトくん?」

名前を呼べば、覚えられていたことが嬉しかったのか、少し微笑むカルト。ナマエもほっとしたように笑った。ただ、まだ少し顔の筋肉が動かしにくかったので、引きつったような笑顔になっていたが。

「姉さま、どうして扉にもたれてるの?」
「なんかね、麻痺しちゃって」
「毒?」
「そうなの」
「歩ける?」
「ちょっと大変かな…」

ナマエが苦笑いをしながら言うと、カルトはすっとナマエの手を取った。驚くなまえに笑いかけ、カルトは言う。

「手伝ってあげる。兄さまの部屋でしょう?」
「あ、うん、イルミさんの…いいの?」
「だってナマエ姉さま、辛そうだから」

ナマエは思わずじーんとなった。今まであまり関わることがなかったカルトだが、思わぬ心のオアシスだった。お礼を言うと再び笑みを返され、ナマエも微笑み、歩き出す。しかしふと感じた違和感に、ナマエはカルトを見た。

「あのね、わたしがイルミさんの恋人っていうのはキキョウさんの勘違いだから、姉さまって言うのは間違ってるんだけど…」
「え、姉さまはいや?」
「嫌とかじゃなくて、うーん…姉さまではないから…」
「じゃあ…ナマエさん?」
「そうだね、ナマエさんかな」

残念そうなカルトの顔に、少し心が痛んだナマエだった。



それにしても、と、歩きながらふとナマエは考えた。キルアもカルトも小さいのにかなりしっかりしている。今のカルトなんかは、ナマエの半分ちょっとの身長なのにナマエをしっかり支えていた。

「ねぇ、カルトくんって今何歳?」
「4つ」
「ええ?!」

予想以上に幼かったらしく、ナマエは目を丸くしてカルトを見た。カルトはくすくすと笑っている。ゾルディック家の驚異的な教育に、改めて驚かされたナマエだった。





キルアの部屋を出てかなりの時間が経ち、ようやくイルミの部屋まで辿り着いたナマエ達。その頃には、ナマエの麻痺もだいぶよくなっていた。カルトに別れを告げて扉をノックするが、返事がない。ノブを回してみると鍵は掛かっていなかったので、扉を開けてみた。

「イルミさん?」

部屋を覗いても、イルミの気配はなかった。イルミは部屋を空ける時には大抵鍵をかけて行くので、ナマエは疑問に思い、近くにいたメイドを呼び止めた。

「すいません、イルミさんって出掛けましたか?」
「はい、お仕事に行かれています」
「ですよね…なんで鍵開けっぱなしだったのかな…」
「それでしたら、ナマエさまが戻られるはずですので、鍵は掛けないようにと言われております」「え!そ、そうでしたか!」

メイドに礼を言って、部屋に入る。自分のためだったのか、とナマエは少し頬を緩ませた。



久しぶりの、
(新しい毒です)
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