ゾルディック家の自家用飛行船で家に戻ったナマエとイルミ。ナマエはイルミの部屋に入ると、嬉しそうにごろごろした。ナマエがいつも使っていた掛布団は丁寧にたたんで、端に置いてあった。その他、彼女が使用人に頼んで貰った必要最低限の生活用品達も、きちんと並べて置かれている。ナマエは懐かしそうにそれらを見ていたが、ふと思い出したようにイルミを振り返った。

「イルミさん」
「何?」
「これどうぞ!」

荷物をガサゴソと探って、ブランドのロゴの入った小さな包みを取り出すと、ナマエはそれをイルミに差し出す。イルミはいつも大きい目をさらに大きくして、それを見た。

「なんで?」
「なんでって、いつもお世話になってるので、感謝の気持ちです!」
「講座のお金使われてなかったけど…」
「ちゃんとわたしが稼いだんです!」

ナマエはにっと笑った。イルミは何も言わず包みを受け取り、開ける。中からは品のいいハンカチが。ナマエは無表情のままハンカチを見ているイルミをしばらく見ていたが、イルミがずっと無言なので、不安になって遠慮がちに話しかけた。

「き、気に入りませんか?」
「いや、ありがとう。でも、こんな気使わなくていいのに」
「駄目ですよ!こんなに良くしてもらったんだから、わたしにもこれくらいはさせて下さい」

ナマエが真剣な目で言ったので、イルミはもう一度お礼を言って、ハンカチを丁寧にしまった。ナマエはそれを嬉しそうな表情で見ていたが、イルミが振り返って何か言おうとしたので、食事か、それとも特訓かと身構えた。しかしその時、部屋の扉が豪快にノックされ、イルミは開きかけた口を閉じ、扉の方を向いた。この乱暴なノックは使用人のものではないし、歩いてくる音も全くしなかったので、家族の誰かだろう。イルミが開いてるよ、と声をかけると、勢いよく扉が開いた。

「ナマエ帰ったって?」
「キルアくん!」

飛び込んで来たのはキルアだった。驚いた顔のナマエを見つけると、にこっと笑って駆け寄ってくる。

「あーよかった、無事だったんだ!」
「う、うん、ありがとう」
「どうだった?」
「受かったよ!」

ナマエはライセンスをキルアに見せた。キルアはへー、とそれを眺めた後、再びナマエを見る。

「後でまたオレの部屋来てよ、新しいゲーム買ったんだぜ!それに、久しぶりだから色々話したいし」
「もちろん、」

言いかけて、ナマエはちらっとイルミを見た。イルミはちょっと黙ってから、ご飯の後ね、とそれを許可した。

「じゃあ、夕ご飯の後ね」
「おー」

ひらひら手を振って出ていくキルアに、ナマエも手を振った。キルアが離れたのを見計らって、イルミは呟く。

「キルとナマエ、そんな仲良かった?」
「え?仲良しですよ?」
「ふーん」

イルミはそれ以上何も言わず、読書を始めてしまった。そうなってはもう相手にしてもらえないので、ナマエは仕方なく自分のスペースに戻り、試験に持って行っていた荷物の整理を始めた。






その日は食堂で夕食だった。ミルキは来なかったが、前回は仕事でいなかったシルバがいた。一年間ゾルディック家で暮らしていたがシルバとはそれが初対面だったナマエは、お世話になってます、と緊張しながら挨拶した。シルバが人のよさそうな笑顔で応えたので、ナマエはホッとした。

「そんなに畏まることはない。イルミの恋人なのだろう?」
「違います!」

まだその誤情報は広がっていたのか、と思いながら、ナマエは律義に訂正した。それからは当たり障りのない話題でそこそこ盛り上がり、久しぶりの毒入り料理もなんとか完食し、ナマエはキキョウと話をしていた。と、そこへ同じく食事を終えたキルアが寄ってくる。

「ナマエ、戻ろうぜ」
「あ、うん」
「まあキル、ナマエ義姉さんと呼ばなくちゃ駄目よ!」
「や、さすがに飛躍しすぎですよ…」
「いーから行こ、ナマエ」

くいっとキルアはナマエの腕を引いた。ナマエは苦笑いしながらキキョウに一礼すると、キルアについて食堂を出る。ナマエはキルアの部屋に、未だに一人では行けなかった。

ぐねぐねと廊下を通り、キルアの部屋に着く。キルアは先にナマエを部屋に入れると、周辺に家族、特にイルミがいないかきょろきょろして確認して、扉に鍵をかけた。

「やーほんと、ナマエ無事で安心したぜ」
「そんな心配してくれてたんだ、キルアくん…」
「ハンター試験勧めたのオレだし。もしナマエが死んで、勧めたのオレってバレたら、オレも兄貴に殺されてたってマジ」
「そうかな、イルミさんはキルアくんのが大切にしてると思うんだけど」
「んなことねーって。ナマエどんだけ兄貴が心配してたか知らねーだろ」
「う、うん…そんなに?」
「おー、そんなにだった」

キルアが真顔で言ったので、ナマエは少し照れて、少し嬉しそうにそっかー、と呟くように言う。キルアはそれを見て、少し意外そうな顔をしてから、にっと笑った。

「なんかさ、ナマエってほんとは兄貴の事好きだろ?」
「は?…え?な、なんで?!そういうのじゃないよ!」
「実際、さっき父さんに恋人って言われた時も、満更でもなかったんじゃないの?」
「違うってば!」

今度は見る見る内に赤くなって、必死に否定するナマエ。からかうネタを見つけたキルアは楽しそうに続けた。

「じゃあどこがやなんだよ?」
「え、や、やなとことかはないけど…」
「完璧じゃん!なんも問題ねーじゃん!」
「問題って…?」
「結婚に?」
「キルアくん!」

ついに声を荒げたナマエに、キルアはケラケラ笑いながら謝った。全く反省の色は見えなくて、ナマエはため息をついた。なかなか笑い止まないキルアに少し呆れながら時計に目をやると、10時を少し回っている。

「あ、わたしそろそろ、」
「あー風呂入る?」
「え、う、うん入るけど」
「じゃーオレも行こ」
「一回イルミさんの部屋に戻らないと、なんか言われないかな…」
「何言ってんの、まだ試験の話とか聞いてないし、ゲームもしてないじゃん!今日はオレの部屋でオール!」
「えぇ?!」
「あ、やっぱり久々だから兄貴と夜の営みとかしたい?」
「ちーがーう!」
「んじゃいいだろ、はい行こー」

キルアは渋るナマエの背中をグイグイ押し、部屋を出た。最初は抵抗していたナマエも、途中から諦めたらしく、大人しく歩いた。昨日ぐっすり寝たおかげで眠たくはないが、明日もし特訓があったら…と考えたら、泣きたくなったナマエだった。



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