ヨークシンは大都市というだけあって、一歩ホテルを出ればデパートだらけだった。ナマエはわくわくしながら街に繰り出した。イルミからはお金は適当に使っていいよと言われていたが、やっぱり人のお金を遠慮なしに使うことはできない。ナマエはウィンドウショッピングを楽しむことにした。

可愛らしい服にキラキラのアクセサリー、行き交うのは幸せそうな人々。ここ最近のハンター試験の日々とは、真逆とも言えるような浮かれた明るい雰囲気に、ナマエも自然と笑顔になった。しばらく歩いて、ナマエは一件の店に入った。そこは紳士物を扱うそこそこ有名なブランドの店だ。お世話になっているイルミに何か買おうと思ったのだ。そのお金はゾルディック家に借りたものではない。三次試験の時にクリスタルリザードの牙を少し削って、持ち帰ったものを売ったお金だ。もちろん、持ち帰っていいかは、ビスケに許可をもらっている。牙はそこまで貴重ではないが、耐熱性が非常に優れているらしく、そこそこの値段で売れた。店内を見て回ってみると、ハンカチくらいなら買えそうだ。ナマエは黒っぽい上品なハンカチを一枚選ぶと、会計を済ませる。

「贈り物ですか〜?」
「はい」
「お包みしますね〜、恋人さんにですか?」
「あ、いや、恋人じゃなくって…じ、上司、ですかね」
「あら〜素敵ですね〜」

にこにこしたお姉さんは、喋りながらも手際よくハンカチを包んでいく。綺麗なリボンが掛けられたそれを受け取りお金を払うと、ナマエは意気揚々と店を出た。しかしその瞬間、強い視線を感じて立ち止まる。たくさんの人々が行き交う中、確かにナマエのことを見ている人がいる。ナマエは緊張しながら、ゆっくり視線の元を探す。そしてその視線を辿っていったナマエは、一人の男と目が合った。

「!」

ナマエは、背筋がゾクッとするのを感じた。頭に包帯を巻き、スーツを着ているその男は、ナマエを見つめたまま、かなり驚いたような表情をしていた。二人の間を、何も気にしていない通行人が横切って行く。男、クロロが何か言おうとするように口を開いた瞬間、ナマエは人混みの中に駆け出した。






クロロは数日前に大きな仕事を一つ終わらせたため、ヨークシンに来ていた。人混みは好きじゃないが、街の外れには馴染みの古本屋がある。仕事を終えた後、そこの本を自分へのご褒美として買うのが、クロロの密かな楽しみだったのだ。ナマエの抜け番に新たに入った男も、なかなかの働きぶりだ。そんな訳で、クロロはその日、機嫌良く古本屋に向かっていた。そしてその道中、ブランド店から、いるはずのないナマエが出てくるのを見つけたのだ。

「!」

その姿を見た時、頭が空っぽになって、人混みの中で思わず立ち止まった。邪魔そうな目で見られるのも気にせず、ただナマエを凝視する。ナマエは怯えたように視線をさ迷わせた後、ゆっくりクロロと視線を合わせた。その瞬間、そっくりの別人などではなく確かにナマエだ、とクロロは直感で感じた。ナマエ、と名前を呼ぼうと口を開いたとき、ナマエは突然駆け出した。

「っ!」

同時にクロロも走り出そうとするが、人混みに阻まれてしまう。同じように、ナマエの姿も人混みの中に紛れてしまい、見失った。

「ちっ…」

焦っていたクロロは、周りにいた邪魔な人間の首を、手刀で切り落としてしまった。そのクロロのあまりに殺気にあてられた人々は、気を失ったりして倒れてしまう。わずかに残った人も、ごろんと転がった生首を見て慌てて逃げたり、腰を抜かしたりしている。それほど禍々しくて凄まじい殺気だった。

「…あ…」

ナマエは倒れた人の中、ぽつんと立っていた。急に辺りはしーんとなり、ナマエとクロロは再び目が合う。ナマエを見たクロロは表情を穏やかにして、手についた血を振り払い、一歩ずつ近付いてくる。ナマエは殺気に完全に怯えてしまっていた。頭の中では、イルミの言った「敵が多かったんじゃない?」という言葉がリピートしている。さっきの殺気から、クロロは完全にナマエを殺す気でいると思ったのだ。

「ナマエ…じゃないか?」

クロロの声は、クロロが思っていた以上に掠れていた。ゴホンと一つ咳払いして、そっとナマエに手を伸ばした。なまえはガクガク震える足を必死に持ち上げ、一歩退いた。しかしクロロは遠慮せずにどんどん手を伸ばしてくる。

「や、だ…こないで、ください…」
「…ナマエ?」

ただならぬ雰囲気のナマエに立ち止まったクロロは、飛んできたダーツの矢への反応が一瞬遅れる。ダーツはクロロの影に刺さり、その動きを封じた。

「…!」

クロロが体の異変に気付いたときにはもう遅く、声が出せなくなっていて、ナマエは全力でその場から走り去っていた。



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