数回のコール音の後、久しぶりのイルミの声が聞こえた。

『もしもし?』
「もしもし、お久しぶりですイルミさん!」
『久しぶり、ナマエ。試験終わったの?』
「はい、合格しました!」

懐かしい無機質な声に思わずじーんとしながら、ナマエは答える。イルミはふーん、よかったね、といつも通り素っ気ない対応だが、ナマエは嬉しくなった。

『で、今どこ?』
「飛行船です」
『…どこ向かってるの』
「ええーと…大きな街に」

電話越しにもはっきりと聞き取れるため息。

『誰かに聞いて、わかったらすぐメールしろ』
「は、はい」

珍しく命令口調だったイルミに、ナマエは慌てて答えた。

『あとさ、途中途中で連絡くらいできなかったの?』
「え?ああ…」
『オレ結構心配して待ってたんだけど。一回も連絡ないし死んだんじゃないかと思った』
「わ、すみません!」

試験の間はずっと電源を切りっぱなしだったし、試験のことで頭がいっぱいだったせいもあり、イルミに連絡など一度もしていなかった。実際携帯をつけたらメールが一件来ていただけだったから、そんなに気にされていないかと思っていたので、イルミの口から直接「心配」と言う言葉が出たことにナマエは驚いた。そして、自然と頬が緩んだ。

『まあ、いいよ。連絡待ってるから』

プツン、と音がして電話は切れたけど、ナマエは携帯を握ったままにやけていた。しばらくそうしていた後、思い出したように部屋を出て、辺りをきょろきょろと見る。大きな扉の前に一人のスーツの男がいるのを見つけたると、ナマエはほっとして近付いた。ナマエに気付いた男は小さく礼をする。多分ハンター協力の人間だろう。

「すいません、この飛行船ってどこに向かってるんでしたっけ?」
「ただ今ヨークシンシティに向かって飛行しております」
「ヨークシンシティ、ですか。ありがとうございました」

ヨークシンシティというのは大都市で、交通の弁もいいそうだ。男に会釈して部屋に戻ると、イルミにメールをうつ。返信はすぐに返ってきた。内容は、適当にホテルをとるからそこで数日待つこと、というものだった。どうやら迎えに来てくれるらしい。ナマエはお礼のメールを返し、飛行船のベッドに寝転がった。


実は、ナマエがハンター試験に参加したのは、もしかしたら昔の自分を知ってる人に出会えるかもしれない、と考えていたからという部分もあった。イルミが初めてナマエに会ったときハンターかと聞いたことが頭に残っていたのだ。もし元々の自分がハンターだったら、試験官か受験者と関わりがあったかもしれない、と少しだけ期待していた。だけど、誰一人としてナマエを知っている人はいなかった。多分そうだろうとは考えていたけど、残念なのには変わりない。

「でも、昔のわたしがハンターじゃないってことはわかったし」

ナマエは自分を納得させるよう呟いた。すでにライセンスを取得しているハンターは、再試験を受けられないのだ。アマチュアであった可能性は残っているのだが。






ゆったりと進んだ飛行船は、その日の夜にはヨークシンに到着した。イルミからメールで送られてきていたホテルの住所に向かい、チェックインをすませる。イルミは2、3日でヨークシンに着くらしい。それまでは自由に観光していていいと言うので、明日は記憶を失ってから初めて一人でショッピングだ。どきどきする気持ちを抑え、いつもより長くお風呂に入ると、ナマエは眠りについた。



おめでとう、久しぶり
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