なんとか時間ギリギリで出口まで戻ってきた二人。クリスタル・ロゼットを見せれば、ビスケは満足そうに頷いた。
「うん、間違いない本物ね。傷もほとんどないし、すごいじゃない!106番と75番、合格よ、おめでとう」
「ありがとうございます!」
ハイタッチして喜ぶナマエとマサムネ。そんな二人を見ながら、ビスケは微笑んだ。
(元々どういう関係かはわからないけど、お互い随分信頼してるみたいね。クリスタル・ロゼットの入手も、75番は状況を見て素早く入手法を考え、106番がそれを正確に実行する…いいコンビだわさ。一人ずつの戦闘力も決して低くはないし…それに、)
ビスケはちらと視線をナマエに向けた。
(特に106番、彼女は面白い念を使えるみたいね。75番も絶のようなものを使ってたみたいだけど…念と理解して使ってるのかしら?)
ビスケがマサムネに視線を移したとき、ビスケの持っていたタイマーがけたたましい音を立てた。その場にいた受験者達はみんな、ビクッとしてビスケの方を見る。
「はーい、三次試験終了!現時点で合格している受験者はおめでとう、晴れてハンターよ」
「え?!」
「あら、言ってなかったかしら?これで最後の試験よ?」
ビスケはにっこり笑って言う。初耳の受験者達はぽかんとしてそれを見ていた。
「それじゃあこの場にいる人、全員飛行船に乗ってちょうだい。合格した三人には簡単な講習とライセンス授与があるから、指示される部屋に向かって」
ビスケはそう指示すれば、自分は早々と飛行船の自室に戻ってしまう。その手にはしっかり、三つのクリスタル・ロゼットが。
残った受験者達は、ビスケの指示通り飛行船に乗り込んだ。洞窟から出てきていない受験者は、こっそり監視していたハンターの誘導により、後から戻ってくるらしい。ナマエとマサムネは、最初に番号札をくれた人の後に着いて移動した。広い講義室のような部屋に着くと、そこにはすでに一人の男が。
「アンタは俺達より先に合格してたのか」
マサムネが男の隣に腰掛けながら話しかけた。男は照れたように微笑み、答える。
「はい、俺、幻獣ハンター志望だから、クリスタルリザードのこと知ってたんで」
「クリスタルリザード、って、あのトカゲの名前?」
「はい…あ、人が来ましたよ」
ナマエもマサムネの横に座ると、見計らったようにお爺さんが入ってきた。ハンター協会の会長、ネテロだ。三人が恐縮するような姿勢になったのを見てネテロは笑った。
「楽にしなさい、合格おめでとう」
ネテロは三枚のライセンスを取り出すと三人に渡し、簡単な講習を行なった。
講習が終わりネテロが部屋から出ていくと、三人は一気に緊張の糸が途切れたようにため息をついた。楽に、と言われたって、人類最強なんて言われているような人が目の前にいたのだ。飄々としていてもどこか隙がなく、なんとなく身構えてしまう。
「じゃあ、俺行きますね」
「あ、あなた名前は?」
「ああ、俺はナグモです。また機会があったら、よろしく」
「ナグモな、俺はマサムネ」
「わたしはナマエ。それじゃあね、ナグモさん!」
部屋を出ていくナグモを見送る二人。そしてナグモが見えなくなると、マサムネもゆっくり席を立った。
「俺もそろそろ行くな。よく考えたらこの約3週間、ずっとナマエといたな」
「そういえばそうだね」
「これもなんかの縁だし、俺のホームコード渡しとくな、なんかあったら連絡くれよ」
「う、うん?」
ホームコードがいまいち何なのかわかっていないナマエは、とりあえずそれを笑顔で受け取った。マサムネも笑顔で手を振りながら部屋を出ていく。残ったナマエもそこを出て、用意された個室に向かった。
自室に着いて携帯を開き、久しぶりに電源をつける。メールが一件だけ来ていて、開くとイルミからの、試験が終わったら連絡すること、という短い内容のものだった。3週間でそれしかメールが来ない自分の友好関係の狭さは悲しくなるが、今までほとんどゾルディックの屋敷を出ていないのだから仕方ない。ナマエはメール画面を消すと、イルミの電話番号を押した。
ハンター試験終了!