洞窟内は狭い一本道になっていて、受験者は我先にとそれを下って行く。下に行けば行くほど空気はひんやりとしていて、足元も湿って滑りやすくなってきた。やっとのことで先頭集団が最下部に着くと、そこはそれまで通ってきた道より随分広くなっていて、道が三つに分かれている。下に降り立った者から先に好きな道を選び、どんどんと先へ進んで行った。ナマエが選んだのは、真ん中の道だった。しばらく進むとまた分かれ道があり、さらにその先にも分かれ道、という繰り返しになっている。帰り道を忘れたら、元の場所に戻るのはかなり難しくなるだろう。そう考えたナマエは、一度元の広い場所まで戻り、ダーツの矢で壁に印をつけながら進んだ。矢はミルキの言っていた通り頑丈で、固い壁に印をつける程度では傷一つできていなかった。


開始から3時間後、だいぶ奥まで来たナマエの周りには、すでに人の気配は感じない。何回も何回も分かれ道を通るので、他の受験者とは完全にバラバラになったようだった。ここまで来ても、ビスケの言っていた蛇やコウモリに全く出くわさないのは、まだまだ奥があるのか、この道が間違っているということなのか。不安になりながらもナマエは、印をつけてから暗い横穴に入り込んだ。


しばらくして、ナマエの耳に微かだが人の叫び声が聞こえた。何が起こったのかと声の方向を目指して走ると、人の気配を感じた。そっと影から様子を伺うと、一人の男に大量の蛇が群がっていた。

「誰かぁ!助けてくれぇ!」

蛇を振り払おうともがいている男の悲痛な叫びに、ナマエは思わず影から飛び出した。まず手足の自由を奪っている蛇をダーツで刺すと、周りにいた蛇と巻き付いていた数匹は警戒して離れて行った。なおも男に噛みつこうとしている蛇は、腕が自由になった男自身が無理矢理引き剥がし、首を落とす。

「た、助かったよ…」

数に限りのあるダーツを回収して数えているナマエに、フラフラしながら男が言った。蛇の毒を食らってしまったらしい。蛇の種類などはわからないが、死に至る毒でないことをナマエは願った。

「俺はもうリタイアするよ…資格より命が大事だ。アンタ、来た道を覚えてるか?」
「印をつけて来たので、辿って戻るといいですよ。ダミーの印もたくさんつけてあるので、間違えないで下さいね」
「ありがてぇ…ああ、この先は行き止まりで蛇の巣があっただけだ。他の道を探した方がいいぜ」

ナマエが入ってきた穴から出て印を確認した男は、それだけ言うと、よろめきながら去って行った。ナマエも男の忠告通り、そこを去ろうとすると、ふと人の気配があることに気付く。絶をしているのか、かなり集中しなければわからないような、微かな気配だ。ナマエがさらに集中して気配の元を探そうとすると、意外なことに相手の方から姿を表した。

「…あれ、マサムネ?」
「お前たいしたお人好しだな!あんなアホな奴、見捨てればよかったのに」
「思わずね…でもマサムネも、叫び声を聞いて来たんじゃないの?」
「まあな。でも俺は助けようと思ったんじゃなくて、なんか情報が得れるかもと思って来たんだが…」
「ならハズレだね」
「みたいだな。でもアイツが嘘ついてないとは言い切れないぜ?奥見なくていいのか?」
「だって蛇、あっちに逃げてったし。気になるならマサムネが見てきたら?」
「や、遠慮しとくわ」

マサムネは笑いながら言った。

「あ、そうだ。よかったら一緒に行動しないか?ナマエ」
「マサムネと?」
「ああいう事態になったら、一人じゃキツいだろ?それにホラ、あの二次試験の後だとさ…」

マサムネの苦笑いを見て、ナマエも笑った。マサムネは意外と寂しがりやなのだろうか。マサムネの申し出を了解すると、二人は穴をくぐった。






二人がそれを見つけたのは、三次試験が始まって一週間が過ぎたときだった。それは醜いトカゲのような風貌で、ギョロッとした黄色い目が妙に印象的だった。そして、その背中には、ゴツゴツとしたこぶのようなものに混じってクリスタル・ロゼットが。

「あ、あれだよな、クリスタル・ロゼット…」
「うん…」

岩の影に隠れてそれを観察していた二人は、小声で言葉を交わした。見るからに獰猛そうなそれからクリスタル・ロゼットを採取するには、倒す以外はなさそうだ。

「先に俺が攻撃してみる」
「気を付けてね?」
「舐めんなって!」
「違うよ、ビスケさんがすぐ壊れるって言ってたでしょ?壊さないでよ?」
「お前な…」

マサムネは苦笑いをしてから、岩影から飛び出した。黄色い目がゆっくりとマサムネを捕らえた。マサムネは腰に帯刀していた二本の刀に手をかけると、じりじりと距離をつめる。トカゲのような生き物は、マサムネを見つめたまま動かない。

「覚悟っ」

それが自分の間合いに入った瞬間、マサムネは抜刀して飛びかかった。それは斬られた瞬間、凄まじい鳴き声を上げた後、青白い炎を吐いた。マサムネは顔を庇うように腕を掲げ、後ろに跳ぶ。しばらく苦しんだ後、それはゆっくりと倒れた。その瞬間にマサムネが調節したので、ちゃんと前に向かって、だ。隠れたまま見ていたナマエが駆け寄ると、マサムネは得意そうに刀を収めた。しかしクリスタル・ロゼットを採ろうと手を伸ばした瞬間、二人は目を疑った。クリスタル・ロゼットは突然、花が枯れるかのように、ボロボロと崩れてしまった。

「う、うそ!なんで?!」
「…そうか。クリスタル・ロゼットはきっと、このトカゲに寄生して自らを採られないよう守ってるんだ。多分守ってくれるものを失ったから、崩れたんだよ」
「採られるくらいなら死んだ方がマシ、みたいな?」
「多分な」
「じゃあどうしたら…」
「それも多分だけど、トカゲが生きてる状態で剥がせればいいんだと思う…けど、キツいよなぁ」
倒れているそれを見て、二人は思わずため息をついた。



さあここからが勝負です
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