約一週間後、ハンター試験開始日前日。ナマエはゾルディック家所有の飛行船で、試験会場である街に来ていた。イルミが適当に捕まえた受験者に会場までの行き方を聞き出したので、難なく会場には到着できそうだった。翌日の試験に備えてホテルに戻ったナマエとイルミは、当然のように同じ部屋に泊まっている。

「わー…やっぱりちょっと、不安になってきました…」
「大丈夫だよ」

いつもと違うイルミの優しい言葉に、ナマエは少し驚いたようにイルミを見た。

「オレが鍛えたんだし」
「そうですよね!」

嬉しそうにナマエが笑うと、イルミも微かに笑った。それは無表情の中にうっすら見える感情ではなくて、確かに表情が笑っていたのだ。ナマエは初めて見たイルミの人間らしい表情に、思わず見入ってしまう。

「…何?」
「あ!…あ、いや…なんでもないです…」
「ナマエ意味わかんないね」

再び無表情に戻ってしまったイルミに、ナマエはつい声を上げてしまった。もう少し、イルミの笑顔を見ていたかった。「明日早いんだし、さっさと寝なよ」
「はい。あ、イルミさん、わざわざついてきてくれてありがとうございました!」
「オレも明日の仕事、遠くだったし」

イルミはそう言うと、ベッドに潜り込んだ。ナマエも今日は床ではなく、ソファーでの就寝だ。久しぶりの柔らかい感触ににやにやしながらも、ナマエは眠りについた。






翌日の朝、イルミに礼と別れを告げたナマエは、昨日聞いた試験会場に向かった。着いてすぐに、106と書かれた番号札を渡される。番号札を渡してくれた人の話によれば、今年は例年よりも、ここに辿り着く人が少ないらしい。屈強そうな男達ばかりの空間にビクビクしながら、ナマエは壁にもたれた。

「ねぇ、キミ」
「はい?わたしですか?」
「そうそう、キミ。ハンター試験は初めてかい?」
「はい」

突然話しかけられ、少し驚いて答えるナマエ。話しかけてきたのは、にこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべた男だ。

「オレはトンパ。ハンター試験は何度も受けてるから、なんでも聞いてくれよ」
「へぇ、すごいんですね。ありがとうございます。わたしはナマエっていいます」

ナマエもまた、にっこりと笑顔で返した。何度も受けてる、の意味するところをわかっていないらしい。

「ナマエちゃんだな。なあ、緊張して喉渇かないか?よかったらジュース、やるよ」

トンパは笑顔のまま、缶のジュースを一本取り出して、ナマエに渡す。ナマエはお礼を言うと、喜んでそれを飲んだ。トンパはナマエに気付かれないように、ニヤリと笑った。

「おいし…ん?」

最後まで一気に飲みきったナマエは、若干顔をしかめた。舌に残った味には覚えがあった。ゾルディック家に来たばかりの頃何度も悪夢を見た、そう、下剤だ。ナマエはちらりとトンパの方を盗み見ると、にやにやと笑っている。人の良さそうな男だと思ったのに、とナマエは少し悲しくなった。下剤程度ならお腹に異常はないが、この先はもっと気を付けていかなければ。ハンター試験が少しわかってきたナマエは、改めて気を引き締めた。


ベルが鳴って、一次試験の開始が告げられた。一次試験の試験官はスタイルのいい女性で、ミヤビと言う名前だった。試験内容は、会場内に隠してある鍵を探し出すこと。鍵は50個しかなく、一人一つまでしか取ってはいけない。

「奪うのはナシ!探し出す能力も見たいからね。もちろんダミーもあるわよ!探すのは、コレ!」

ミヤビの言葉で、受験者達に紙が配られる。紙には装飾の多い、銅の鍵が描かれていた。

「それと、奪うのはナシでも妨害はアリだから気を付けてね!それじゃあ始めてちょうだい!」

ミヤビがぱん、と手を叩くと、受験者達は一斉に散った。大半は壁際など物を隠せそうな場所に群がったが、妨害に徹する者もいた。ナマエも一歩遅れて怪し気な像を探し始めたが、突然聞こえた悲鳴に思わず振り返った。悲鳴の元を見れば、一人の男が熊のような獣に襲われていた。

「ははっ、アイツきっとダミーを取ったんだぜ」

ナマエの横に立っていた男が馬鹿にするように言ったが、ナマエはそれを聞いてミヤビがにやっと笑ったのを見ていた。違和感を感じたナマエが「凝」をしてみれば、どうやら獣は念獣らしい。仕掛けの意味を理解したナマエは小さく笑って、再び鍵探しに戻った。



ハンター試験開始!
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