ナマエがハンター試験に申し込みしたのは、それの存在を知った2ヶ月後だった。イルミが、念が完成しなければ試験には参加させないと言ったのだ。期限は申し込み締め切りまでの2ヶ月間で、ハンター試験を受けてみたかったナマエは、四苦八苦しながらも、なんとか念を完成させた。

「ナマエはそんな頑張って、何ハンターになりたいの?」

申し込み書を出した帰り道の森の中、イルミは隣を歩くナマエに尋ねた。ナマエは少し考えてから、イルミの方を向いて答える。

「あんまり考えてないんですけど…遺跡ハンターなんか、楽しそうですよね!わたし、古代文明とか好きなんです」
「ふーん、意外。オレは楽しそうとは思わないけど」
「それに幻獣ハンターも面白そうですよね…あ、美食ハンターなんていうのもあるらしいんですよ!食べるの好きだし、いいかもしれないですね」
「美食ハンターって料理できなきゃ駄目じゃない?」
「料理くらいできます!…そんなに上手くは、ないですけど…」

イルミにからかわれ、ナマエは悔しそうに言い返した。しかしすぐに苦笑いになり、少しだけうつむいた。

「…本当は、自分の記憶を探したい、なんて少し思ったりもしてるんです、けど」

ちらとイルミが盗み見たナマエは、少し寂しそうに笑っていた。イルミはふーん、と独り言のように呟いて、会話は途切れた。しばらく二人は、お互い無言のまま歩いた。足元では、枝がポキポキ音を立てている。沈黙を破って再び話し始めたのは、イルミだった。

「ナマエはやっぱり、過去が気になるんだ?」
「まあ…気にならないって言ったら、嘘になりますね…」
「そう」

今度は、ナマエがイルミの横顔を盗み見た。一年近く一緒に過ごしてきても、ほとんど毎日変わらない無表情。いつもは微妙な表情の変化で読み取れる微かな感情も、今はない。と、イルミが突然ナマエの方を向き、目が合った。それは真剣な雰囲気だった。

「もし昔の念思い出しても、新しく考えたやつ、使ってね」
「…へ?は、はい」

何を言われるかと身構えていたナマエは、思わぬイルミの言葉に、少し拍子抜けしたような顔をした。しかしイルミはナマエの答えに、珍しく安心したような表情を見せた。

「あ、そういえばミルキが武器できたって言ってたよ」
「わあ、ほんとですか?」
「ミルキの部屋行って受け取って来て」

ちょうど屋敷に到着し、その辺にいた執事を捕まえ案内を指示すれば、イルミはさっさと自分の部屋に戻ってしまった。ミルキとは以前のディナーで会っただけで、その時の印象でナマエはミルキが苦手だった。なにしろ初対面で「変わった趣味」なんて言われたのだ。しかし、ミルキは自分のために武器を作ってくれていたんだし、何よりイルミの言ったことに逆らう訳にはいかない。ナマエは渋々といった感じで、執事の後の続いた。

イルミやキルアの部屋と違い、ミルキの部屋は地下にあった。蝋燭の火に照らされた扉は、妙に重々しい雰囲気を出している。戻れなくなると困るので、案内をしてくれた執事にそのまま待っていてくれるよう頼むと、ナマエは扉をノックした。短い返事が中から返ってきたことを確認すると、ナマエは意を決して扉を開けた。

「し、失礼します」
「なんだ、イル兄の彼女か」
「彼女じゃないです…」
「なんでもいいけど」

部屋の床にはお菓子の箱や袋が散乱していて、壁にはフィギュアがぎっしりと並んでいた。机の上には何台もの改造されたパソコンが並んでいる。その異様な雰囲気に、ナマエはビクビクしながら部屋に足を踏み入れた。
「武器、作って頂いたみたいで…」
「あー、できてるよ」
「ありがとうございます!」

ミルキは色々な物が山積みになっている机を探って、一つの箱を取り出し、なまえの方に放った。なまえはそれを見事キャッチして、蓋を開けた。中には、針の部分が普通よりも長くなっているダーツの矢が、10本入っていた。

「それかなり硬度のある合金でできてるから、ちょっとやそっとじゃ壊れないぜ。その分重いけど」
「針のとこは、なんで長いんですか?」
「知らないよ。イル兄がそう作れって言ったんだよ。イル兄に聞けば」
「そ、そうですか…ありがとうございました」
「ん」

さっさとなまえに背を向けてしまったミルキに向かって礼をすると、なまえは部屋を出た。思っていたより、嫌な人ではなかったようだ。



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