翌日、わたしと七松は忍術学園に帰ってきた。とりあえず新野先生に怪我を見てもらってから、自分の部屋に戻る。しばらくしたら、シナ先生の部屋に行くように言われていた。先生と城の忍者隊の間では、すでに話し合いは終わっていて、あとは今日の結果発表を待つのみだったのだ。わたしは久しぶりに制服を着て、黙ってその時を待った。約束の時間が来て、一人でシナ先生の部屋に向かう。部屋の前に立つと、わたしが何か言う前に、入りなさいと声がした。失礼します、と障子を開けると、おばあちゃんの方のシナ先生が正座をしていた。その正面に、わたしも正座する。

「卒業試験お疲れ様でした」

シナ先生は穏やかに微笑んだ。

「出来映えはどうですか、名字さん」
「…駄目でした」
「どうしてそう思うのかしら?」
「忍は結果が全てです。わたしは結果を出すことができませんでした」
「そうですね」

自然と顔が俯く。わたしは膝の上で握り締めた拳をひたすら見つめた。

「それでは、名字さんの試験結果を発表します」

今さら、震えそうだ。

「名字さん、就職決定です。おめでとうございます」
「はい……………、え?」
「就職、つまり試験は合格です」
「嘘…だって、わたし…え?」

シナ先生がからかっているのかと思った。散々だったわたしを、本当に雇ってくれるって?嘘でしょう?

「ただし、名字さんは月読城に就職です」
「え、ええええ?!」
「明星城からも、始めは内定を頂いたのですが、月読城の話を聞いて辞退されました。なので名字さんは、月読城に…」
「話って何ですか?明星城は月読城の敵ですよね?どういうことですか?」
「そう焦らないで、名字さん。順を追って話しましょう。これは貴女にとって、とても良いお話よ」

シナ先生は、膝の上で強く握られていたわたしの手を緩く握って、そっとそれを解いた。

「確かに名字さんは、結果は出せなかったけれど、言ったでしょう?この試験は行動や判断力や知力、色んなものを総合的に見ています。結果を出すことは確かに最重要よ、でも仲間のサポートができることも、忍者、特にくのいちには重要視されます。名字さんは明星城の条件に十分な働きをした、ということです」
「は…い…」
「本当よ?でもね、実は月読城からも、ぜひ来てほしいという便りが来たんです。知っての通り七松くんは、体力が有り余っていますね?」
「はい」
「個人実習で七松くんの力強さを十分知っている月読城の方が、ぜひ名字さんに七松くんを上手く扱ってほしい、とおっしゃってきたんです。明星城の方も、名字さんは七松くんと一緒が一番力を発揮できるかもしれないと考えて、辞退しました。名字さんがどうしてもと言うなら、明星城にもう一度お願いしてもいいですが…」
「ち、ちょっと待って下さい。明星城と月読城は戦の直前じゃないんですか?どうしてそんな、」
「ああ、実際はあの三つのお城は、領地争いなんてしていないんですよ」
「ええ?!」

もう、何と言えばいいのか。さっきから開いた口が塞がらない。

「ずっと前は領地争いをしていましたが、戦はお金がかかるでしょう?そこで三つのお城は話し合って領地をはっきりと決めて、それ以来はあそこで戦は起こっていません」
「でも、群雲城が新兵器を開発したのをきっかけに、また関係が危うくなったとか…」
「新兵器も嘘です。実際にあれは、少し前に学園長先生が考案した兵器ですが、重量や技術が非現実的で、作られることもなく終わったんです」
「そんな…」
「卒業試験には毎年、色んなお城が協力してくれています。後輩には、絶対に、言ってはいけませんよ」
「は…はい」

後輩に言ったらどうなるか。そんなこと、怖くてとても聞けなかった。

「さて、最終確認ですが、名字さん。月読城に就職する気はありますか?」
「は、はい!」
「よろしい。名字さんの実力は私が一番認めています。卒業、おめでとうございます」

じんわり、涙が滲む。今日こそあの食堂のタダ券を使う時だ。立ち上がって深いお辞儀をしたわたしに、シナ先生はそういえば、と付け加えた。

「七松くんの結果は気になりませんか?」
「き…になりま、す」
「もう部屋の外にいるみたいですよ」

すぐに振り返って障子を開けると、そわそわした七松が歩いて来るのが見えた。わたしはシナ先生に、失礼しました、と言うと、七松に駆け寄ろうとした。しかし、肋骨が痛くて諦めた。逆に七松の方から駆け寄って、わたしを支えてくれた。

「名字!私受かっていたぞ!」
「わ、わたしも、わたしも合格だったの!」
「本当か?!」

七松は、自分のことのように喜んでくれた。

「七松は、月読城?」
「ああ!名字は明星城か、私達、敵になるんだな」
「それがね、わたしも月読城なの」
「…は?」
「だって、七松を押さえられるのなんて、わたしだけでしょう?」
「ほ……本当か!?」

わたしがにっこり笑って頷くと、七松は勢い良くわたしに抱き着いてきた。

「ば、馬鹿、痛い痛い!」
「すまん!だが、本当に嬉しいんだ!」
「とりあえず放して、」
「無理だ!」

そう言いながらも、七松は腕の力を弱めてくれた。ふんわりと包まれて、七松にもこんな繊細な力の使い方ができたのかと思ってしまう。

「これからも宜しく、七松」
「なあ、七松って止めてくれよ」
「え?」
「これからは小平太って呼んでくれないか?名前」

突然名前を呼ばれて、不覚にも顔は赤くなった。七松は期待を込めた目でわたしを見ている。わたしは一つ咳ばらいをしてから、七松の目を見た。

「…小平太」

照れ臭そうに笑った七松の顔は新鮮で、なんだか可愛い。

「名前、きっとこの気持ちが、愛おしいって言うんだな」
「えへへ」
「なあ、ずっと私の側にいてくれ」
「小平太には、わたしがいないと、駄目だものね」
「ああ!」

わたし達の七夕の願い事は、驚いたことに、どっちも叶ってしまったのだった。
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