ずっと痛いなんておかしいなと思っていたら、どうやらわたしの肋骨は折れていたらしい。七松が応急処置をしてくれていたし、実習でもっと酷い怪我を負ったことも何度もあるけれど、折れていると聞いた途端に痛みが増した気がした。七松に支えてもらい、半日かけて月読城の城下町まで戻り、手当てを受けたが、しばらく安静にしていなさいと言われた。道中、城の兵士や忍者に襲われることはなかった。七松が言うには、七松がこっぴどくのしたから、らしい。その日は仕方ないので、わたしは診療所に、七松は昨日とは別の宿に泊まり、翌日七松は一人で月読城に出発した。わたしはただボケッと、診療所の窓から外を眺めた。自分で言うのもどうかと思うけれど、わたしは体術はくのたまで一番の自信があった。筆記だってたくさん勉強して、文句なしの成績だと思っている。しかし実戦とは、それだけでやっていける甘い世界ではなかった。わかっていたつもりだったけど、わかっていなかったのかもしれない。また明日から勉強し直して、二月の試験に備えるのか。それならそれで、少し安心したところもある。わたしはまだ未熟だ。ゆっくり心の準備をしたらいいのだ。七松が戻ってきたら、一緒に学園に帰って、お別れをして。気持ちは、まあ昨日言ってしまったようなものだけど、七松が何も言わないようなら、もうしまっておこう。色々心に決めてしまうと、少し気が楽になった。きっと潮江も落ちただろうな。最初は会うのは気まずいけれど、一緒に頑張ろう。他には、善法寺とか、落ちていそうだ。あんまり話したことないけど、これを機会に話そうかな、なんて、善法寺が落ちたと決まった訳でもないのに。無駄なことを考えていたら、一日は驚くほど早く過ぎた。緊迫した状況で、たくさん考えるべきことがあると、一日は長く感じるのに。そう考えると、今日一日を無駄にしてしまった実感で、ちょっと後悔したりもした。まあ、今日くらいはいいかな。

夕方、診療所の精進料理を頂いていると、七松が駆け込んできた。食事をしているわたしを見て、七松はほっとしたような顔をした。

「おかえり、七松」
「ああ!」

薬より何より、七松の笑顔は元気をくれた。今日はわたしも宿に泊まっていいと言われたので、少ない荷物を宿に移動させ、七松と二人で縁側で並んで空を眺めた。

「なあ、知ってるか」
「何を?」
「今日は七夕だって」
「あ、」

言われて気が付いた。今日は七月七日、七夕。今日の朝から晴れた空には、星が輝いている。澄んだ夜空を見つめていたら、まるで昨日までの試験のごちゃごちゃが溶けてなくなるようだった。

「短冊でも書いてみるか!」
「笹がないわ」
「実は今朝、町の外れで七夕の祭をしていたんだ。今から少し散歩がてら行かないか?」
「素敵ね」
「歩けるか?」
「大丈夫」

わたしは七松に支えてもらいながら、町の外れまで、空を見上げながらゆっくり歩いた。七夕の夜だからか、町はわりと賑わっていた。七松の言っていた七夕祭の場所まで来ると、大きな笹にたくさんの短冊がついているのが見えた。

「短冊を二つもらってもいいか?」
「もちろん!ぜひ書いていってくれ」

気の良さそうなおじさんから短冊を二枚と、筆を借りてきた七松は、一枚をわたしに差し出した。わたしはお礼を言ってそれを受け取り、筆を持って少し悩む。願い事、か。立派なくのいちになること、二月の試験に合格すること、七松が怪我をせずに頑張ること、色々浮かんだけれど、いまいちぴんとこない。恥ずかしいけれど、せっかくだから童心にかえって、非現実的なことでも書いてみようか。筆を取って書いた文字は、七松とずっと一緒にいられますように。自分で読み返して、顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしくなった。書き直そうかと思ったとき、七松ができた!と叫んだ。

「なあ名字、何て書いたんだ?」
「ひ、秘密。七松は?」
「見ろ!」

七松の短冊には汚い字で、私も名字も無事に卒業できますように、と書かれていた。

「わたしの分まで?ありがとう」
「なあ、名字のも見たい!」
「い、や!」

七松の腕をすり抜けて、わたしはおじさんに短冊を渡した。

「彼に見えない高いところに結んでもらえませんか?」
「ああ、任せな」

おじさんはわたしの短冊を、かなり高いところに結んでくれた。七松はちょっといじけた顔で、下の方に短冊を結んでいた。そんな七松を見ながら、叶わない願い事とわかっていても、あれが叶えばいいのにと思ってしまった。わたしの短冊は誰にも見えない高いところで、ひらひら風に揺れている。
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