翌朝、わたしと七松は、まだ薄暗い夜明け頃に起きた。少ない荷物を持って門に向かうと、シナ先生と七松が待っていた。今日の先生は若い方だ。

「おはようございます、シナ先生」
「おはよう名字さん。これが月詠城からの依頼書です」

先生から封筒を受け取り、中を見る。綺麗な字で書かれた手紙には、忍務の内容が書かれていた。

「それじゃあ、二人の健闘を祈ります。頑張りなさい」

シナ先生は最後にわたしの肩をぽんと叩いて、学園の方へ消えた。七松はすぐに手紙の内容に目を戻す。手紙によれば、目的の密書は群雲城の開発した新型の兵器の設計図らしい。城内部の見取り図もできたら欲しいとのこと。なるほど、小さな城に攻め込むのを躊躇したのは、この得体の知れない兵器が原因のようだ。

「読んだか?覚えたな?」
「うん」

七松は確認してから、火種で火をつけて手紙を燃やした。それから立ち上がり、その場で何回もジャンプした。

「よーし、早く行くぞ、名字!」

気合い十分の七松が、門の外に踏み出した。わたしも立ち上がって七松を追ったけれど、意識は首元にある小さな紙に向いていた。シナ先生がわたしの肩に手を置いたとき、忍ばせたものだ。つまりこっちが明星城からの、本当のわたし宛ての依頼書なのである。七松がいる前で見るわけにはいかない。分かれて行動するまでは、隠しておかなければ。





群雲城に一番近い町に着いたのは、忍術学園を出発した日の夕刻だった。本当は丸一日かけて行くつもりだったので、早く着いた方だ。

「折角早く着いたから、侵入できそうな場所を確認しておくか」
「うろついていて目を付けられたら大変よ。ちゃんと変装してね」

私達は観光客の夫婦に扮して宿をとり、それから群雲城に向かって出発した。宿の人に、危険だからあまり遅くならない内に帰った方がいいですよ、と言われ、笑顔で答える。怪しまれないように、早めに引き返そうと決めた。

町を抜けると、群雲城までは一本道だ。町から見えているだけあって、その距離は結構短い。私達は親しげに話しながら、意識は城の周辺に向けていた。

「あっちの水路から入れそうだぞ」
「水路は危険よ、罠があるかも。裏口の見張りを倒して、その変装で入ったらどうかしら」
「じゃあ裏口の警備状況を見ておくか」

羽織りを裏返して森に入り、こっそりと裏口の方に回る。見張りは二人、入って来づらい場所だから手薄なのだろう。見張りの交代するタイミングを見てから、わたし達はまたこっそりとそこを離れ、入ったのとは別の場所から出て、また羽織りを裏返す。見付かりにくい深緑から、鮮やかな着物に変わって、わたし達もまた夫婦の演技に戻る。仲睦まじい様子に見せながらも、わたし達は小声で明日の相談をした。

「やっぱり裏口が良さそうね」
「名字静かに、群雲城の兵士だ」

七松の言葉で、わたし達の会話の内容はお城の立派さだとか、昨日のうどんが美味しかっただとかに変わる。そんなわたし達に、群雲城の紋の入った武具をつけた兵士が近付いてきた。

「町の者か」
「いえ、今は旅行中なんです。今日はあちらの町に滞在予定ですが」
「この辺りは夜危ない。早く町に戻りなさい」
「あら、山賊かしら?物騒ですね」
「わざわざありがとう」
「気をつけて」

わたし達は少し急ぎ足で、その場を後にした。町に戻ったのは随分暗くなってからだった。部屋に入ってから変装のかつらや化粧を落とし、明日の相談をする。

「夜は見張りが増えるみたいね」
「交代の時間だけは避けて、手早く見張りを倒して着替えよう。見張りの交代で中に入って、一人はそのまま城内の地図を怪しまれない範囲で調べて、もう一人は潜んで密書を探す、ってことでどうだ?」
「じゃあわたしが密書を調べるわ」
「任せたぞ!」

同じ部屋で寝ることなんて、今更気にしたりしない。七松は寝る前にストレッチを始めたので、わたしは先に寝ることにした。明日からは、ちゃんと寝られるかわからないのだ。
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