忍術学園入学から早六年。わたしは十五歳、忍術学園の六年生になった。今わたし達六年生は、就職活動中である。忍術学園卒業生の主な就職先は、実習などでお世話になった城など。大半が城勤めになり、何人かは忍者を諦めて他の職に就き、ごく一部がフリーの忍者になる。城勤めやフリーで経験を積んで、学園に戻ってきて教師になる人もいる。とにかく、とりあえずはどこかの城に就職するのが一般的なのだ。例に漏れず、わたしも城勤めを希望している。そんなわたしにとって最も重要なのが、卒業試験だった。忍術学園の卒業試験は早く、七月に行われる。先生が、卒業できる実力と認めた時点で、わたし達は卒業できる。なぜなら、城は常に忍者を必要としているからだ。今すぐに、明日からでも来てほしいという城は結構あったりする。もしこの試験に落ちても、就職の機会は減るけれど、二月に最後のチャンスがある。その試験にも落ちたら、仕方ないけど忍者を諦めるしかない。そして、これが一番の理由だけど、この試験は就職試験を兼ねているのだ。この試験の行動を総合して、城の殿様や忍者隊の頭が採用不採用を決める。最大のアピールチャンスなのである。試験様式は年ごとに先生が変えるのだけど、今年の試験は忍たまとくのたまが二人組でやるらしい。今年は忍たまとくのたまが同数残ってるからだろう。例年、くのたまの方が少ないので、今年のくのたまはガッツがあると学園長が言っていた気がする。

試験の前日、わたし達六年生のくのたまは、一人ずつシナ先生の部屋に呼び出された。今日のシナ先生はおばあちゃんの方だった。

「名字さん。今日までお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「あなたの入学してきた日のことを今でも覚えていますよ」

シナ先生はにっこりと笑った。思い出話は止めてほしい。たくさんの思い出に、泣きそうになる。わたしの気持ちを汲み取ったのか、そうじゃないかはわからないけど、シナ先生は話を早めに切り上げて、さて、と真面目な顔をした。

「名字さん、試験の内容は聞いていますか?」
「はい、二人組でやるということだけ」
「その通り、今年の試験は忍たまと二人組で行います。名字さんと組むのは、六年ろ組の七松小平太くんです」

七松小平太。彼のことはよく知っていた。入学してから一番始めの合同授業で、わたしと七松はペアを組んだのだ。それからは、相手を自分で指名できる時は、七松はいつもわたしを選んだ。七松は強いけれど、噂に違わぬ暴君で、組むたびに苦労する。いい加減それにも慣れたけれど、卒業試験まで七松と一緒なんて。七松に始まり、七松に終わる。聞いただけで疲れる。

「七松…ですか」
「はい。ですが、七松くんは名字さんのペアであるだけで、味方ではありません」
「どういうことですか?」
「この試験には三つの城が関わっています。月読城、明星城、群雲城です。七松くんは月読城、名字さんは明星城についています。二人で群雲城から密書を盗み出し、七松くんにばれないよう密書を奪い、明星城に届けるのが名字さんの試験です」
「七松は知らないんですか?」
「ええ。七松くんの試験は、盗んだ密書を無事に月読城に持ち帰ることです。名字さんはくのいちとして、七松くんの補佐をすると伝えてあります」

シナ先生は、膝の上に置いていたわたしの手を上から握って、またにっこり笑った。

「この試験、名字さんか七松くんのどちらかは落ちることになります。わかりますね?」
「はい…」
「あなたはよくあの七松くんを支えていますね」
「はい…え?」
「他の先生方も言っていましたよ。七松くんが落第を逃れてきたのは、名字さんの力が大きいと」
「そ、そんな…」
「ですから、この試験、名字さんが先に卒業してしまって、七松くんが残ると、彼の卒業は大変じゃないかと、昨日話していたんです」

にっこり笑顔が急に怖く感じた。シナ先生の圧力なのか。でもわたしは負けない。

「将来がかかっているんです。七松のお守りはしてられません」
「その意気です。私は名字さんを応援していますからね」

シナ先生は声をあげて笑うと、食堂のタダ券をくれた。願わくば、合格祝いにこの券を使えますように。わたしは券を大切にしまうと、礼をしてシナ先生の部屋をあとにした。



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月読城はツクヨミ城
明星城はアケボシ城
群雲城はムラクモ城
と読むつもりです
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