中学生の、一年間で最初の試練、それは一学期の中間テストだろう。大海原中サッカー部には、赤点もしくは補習があった部員は、公式戦に出られないという決まりがある。そのため、部員達はテスト前の、部活が活動停止になる期間中、部室に集まって勉強会をするのが、いつの間にか恒例になっていた。教えるのは主に、成績優秀の音村。その補助を、文系教科はなまえが、理系教科は古謝が受け持っている。

「あーあ、大海原のサッカー部って緩いと思ってたのに」
「残念だったな」
「質問じゃないなら黙ってやれ!」

ぼそり、と悪態をついた赤嶺に、黙々と数式を片付ける音村が言い、平良がシャーペンで赤嶺のプリントをトントンと叩いた。赤嶺は渋々プリントとのにらめっこに戻る。何をやっても騒がしいサッカー部員達も、この時期ばかりは大人しく勉強するようになるのである。

「ねえ、楽也、この問題わかんない」
「どれ…ってそれ、さっき教えたのと同じ公式だよ」
「あれ?嘘」
「ほんと」
「んー…あ、ほんとだ」

会話が途切れ、また部室に静寂。この状況に慣れていない一年生、得に騒がしい赤嶺は、堪えられなくなったのか、ちょっと走ってくる!と部室を駆け出した。

「赤嶺逃げたよ」
「放っとけ」

ちら、と扉を見てキャンが呟いたけれど、渡具知がすぐに返した。追いかけようかちょっと迷った宜保には、謝花がそのうち戻ってくるから、と声をかけた。とにかく、普段全く勉強しないサッカー部員達は、勉強が危ういのだ。

「あ、英語わかんね、みょうじ教えて」
「どこ?」
「ここ」

今度は平良がなまえに聞いた。なまえは平良の差し出したワークを見て、思わずあっと声を上げる。

「これ、もしかして、提出だっけ!?」
「おお」
「明日、だよね…」
「たしか」
「やだー!教室に忘れてきた!やってないのに!」

なまえはガタンと席を立つ。

「取ってくる!」
「ちょ、行く前に教えてくれよ!」
「楽也に聞いて!」

テスト期間中は、校舎が施錠される時刻がいつもよりも早いため、急いで行かなければ教室に入れないかもしれない。そう考えたなまえは、部室を飛び出した。すぐ外のグラウンドで、サッカーボールを蹴って走っていた赤嶺と、目が合う。

「あれ、先輩?もう勉強終わり?」
「ちょっと教室までワーク取りに行ってくる!」
「教室?!安次嶺先輩残ってないすか?!」
「ティナちゃん?どーかな」
「俺もお供します!」

ボールを軽々カゴに蹴り入れ、なまえを追ってきた赤嶺。

「お、ナイシュー」

なまえの言葉に赤嶺はにっこり笑った。



海の上の廊下を駆け抜け、なまえが教室の扉を開く。残念ながら、残っている人影はなかった。赤嶺は目に見えて肩を落とす。ワークを机から取り出し、扉のところに戻ってきたなまえに、赤嶺がぼやいた。

「いないじゃないすか!」
「赤嶺が勝手についてきたんでしょ!」
「先輩がいるかもみたいな言い方したから、」
「お?なまえか?」
「ん?」

明るい声に二人が振り返ると、綱海が手を振っていた。なまえも、おーいと手を振り返す。

「条介!もしかして勉強してたの?」
「まさか!次のテスト悪かったらサーフィン禁止で補習授業だ!って担任に説教されちまってさ」
「条介ってそんなに成績悪いの?」
「んー、まあ俺的にはほどほどなんだけどな」

苦笑いの綱海に、なまえも曖昧な笑みを浮かべた。一人話に入っていけない赤嶺は、二人の一歩後ろを歩きながら、その後ろ姿を交互に見比べる。

「なまえ、もう帰りか?」
「ううん、これから部室に戻って勉強会」
「あー、そうか。キャンも音村も一緒だったな」
「うん!条介は帰るの?」
「そうだな、俺も勉強しねぇとやべぇから」

そういうと綱海は、なまえの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、土間の方へ別れて行った。また明日、と綱海に手を振るなまえの袖を、赤嶺がくいくいと引っ張る。

「みょうじ先輩、あの人って、三年の綱海さんっすよね」
「うん、そうだよ」
「ため口で名前呼び捨てって、先輩達、付き合ってたり?」
「バカ!違うよ、条介と楽也とキャンとわたし、幼なじみなの」
「あー」

少しだけ顔を赤くしたなまえに、赤嶺がにやっとしたので、なまえからの鉄拳を喰らう羽目になった。

「へらへらしてないで、部室に戻ったらまた勉強だよ」
「うげー!」
「わかんないとこあったら教えるから、真面目に、やりなさいよ」
「はーい」

真面目に、を強調したなまえに、赤嶺は渋々答えた。なまえはパラパラとワークを確認してから、突然走りだした。

「急になんすか!」
「ワーク、全然やってなかった!」

マネージャーとは思えない足の速さを発揮したなまえは、赤嶺を置いて、部室まで一直線に走った。



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