新学期が始まって数日。新一年生の仮入部期間が始まるこの時期、大海原中の部活動はどこも、新入部員の勧誘に燃えていた。基本的には登下校時が一番のアピールタイムだが、昼休みなどに一年生の教室を回る部活動も少なくない。もちろんサッカー部も例外ではなく、いつもの無駄にノリノリなテンションで一年生の教室を回っていた。

「はあー、だいぶ叫んだから疲れたー」
「マネージャー、やっぱりサッカー部の勧誘が一番盛り上がったみたいだぞ!」
「おかえりー東江」

バスケ部の勧誘演説を偵察に行っていた東江が、嬉しそうに2年2組の教室に戻ってきた。椅子だけ後ろを向けて平良と一緒に遅めの昼食をとっていたなまえがヒラヒラと東江に手を振る。

「盛り上がりは入部人数と比例しないんだよ、東江」

メロンパンの袋を開けながら平良が冷めた口調で言う。

「平良だってさっき散々盛り上がってた癖に」
「別に新入部員が欲しくて盛り上げたんじゃねーよ、楽しかったから」
「じゃあ潜、新入部員いらないの?」
「増えすぎても面倒くさいし」

もさもさとメロンパンをかじる平良。

「わたしは増えるの歓迎だけどなー」
「でも確かにレギュラー争いは面倒だな、折角ようやく俺らも先輩なのに」
「新入生にレギュラー取られてちゃ駄目じゃん、あがり…」
「失礼します!」

なまえの言葉を遮って、元気な声が教室に響く。反射的にクラス中の視線が扉の方に向いた。そこにいたのは一年生らしい男子が二人。その内一人が教室をきょろきょろと見回しなまえ達を見つけると、嬉しそうに寄ってきた。

「サッカー部の先輩ですよね!さっき、勧誘に来てた」
「あ、うん、そうだけど」
「俺、大海原中のサッカー部に憧れてたんす!これからよろしくお願いします!」

ぺこっと頭を下げた男子に、たじろぐなまえ。一方、相変わらずメロンパンを食べている平良は、うげ、と声を漏らした。

「俺、お前知ってる」
「え!」
「いやお前じゃなくて」

頭を下げていた男子の横にいた男子を指す平良。今まで喋らなかった方のその男子は驚いたような顔をした。頭を下げた方も、びっくりして平良と同級生を見比べる。

「ワシですか」
「DFだろお前」
「はい」
「名前はえーと、ああ宜保だ宜保」

メロンパンを食べきった平良が、ぽんと手をうつ。

「有名だったの?」
「おお、いいDF」
「お、俺は?俺は?」
「お前は知らない」

照れる宜保を余所に、必死に平良に聞く、頭を下げた方の男子。平良は軽く流して、コーヒー牛乳の紙パックに手を伸ばした。

「そんなー」
「モジャモジャくんは何て名前?」
「赤嶺っす!ちなみにDF!」
「やっぱ知らねー」
「まあまあ潜。二人はもう、サッカー部に入るつもりなの?」
「はい!」
「はい」
「そう。わたしはサッカー部マネージャーのみょうじなまえ、よろしくね」
「よろしくお願いします!」

なまえがにっこりして差し出した手を、赤嶺が笑顔で握り返した。そのあとすぐに宜保にも手を差し出すと、少し照れ臭そうにしてから、握った。

「じゃあ、用事それだけなんで!」
「うん、またね二人とも」

なまえが二人に手を振り、二人が教室を出かけた時。

「なまえ!ご飯すんだ?」
「あ、ティナちゃん」

なまえの言葉に、びくん、と反応した赤嶺。教室を出かけていた体を、ぐるんとUターンさせた。

「何だよ赤嶺、まだ用事か?」
「ああああの、みょうじ先輩って、安次嶺先輩と仲いいんすか?!」
「安次嶺?あー、仲いいよ」

楽しそうに会話するなまえとティナをちらっと見て、東江が言った。赤嶺は興奮して、二人を、いやティナを見ている。

「安次嶺先輩、やっぱり美人っすね…」
「赤嶺もさっそく安次嶺ファンかよ」
「実は」

呆れたような東江の言葉に、赤嶺はちょっと頬をそめて頭をかいた。東江がキモッと呟いたのも気にしない。平良がひょいひょいと赤嶺を手招きして、わざとらしく声をひそめる。

「そんな赤嶺に、いいこと教えてやるよ」
「え、なんすか!」
「安次嶺な、好きなやついるらしいぞ」

表情の固まった赤嶺を見て爆笑する東江と平良を、なまえとティナが不思議そうに振り返った。

「なんだ、もう仲良くなってる」
「一年生?」
「サッカー部のね、入部希望者だって!勧誘の甲斐があったよ」
「ふうん、面白い子ね」

にこ、と笑ったティナに、固まっていた赤嶺が、再び赤くなる。

「先輩!俺毎日このクラス遊びに来るっす」
「来んな」
「安次嶺先輩に名前覚えてもらいたいなあー」
「来んな」
「いいじゃないすかー!…ていうか」
「あ?」
「先輩、名前何て言うんすか?」



部活動勧誘は戦争です

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -