大海原中に、体育祭の季節がやってきた。体育祭といえば、一年のうちでも、かなりビッグなイベントの一つである。元々ノリのいい大海原の生徒達は、この時期は得に盛り上がる。大海原中体育祭の一番のメインは、エール交換だ。エール交換は、男子でも女子でも、有志の生徒達が学ランに鉢巻きで行う。体育祭の何週間も前から練習を重ねたタイミングの合った演技は、本当に格好いいと毎年評判だ。

「えー!条介、総団長になったの?!」
「おう!」
「白団の団長ってことも知らなかった」
「あれ、俺言わなかったか?」

いつも通り一緒に登校していた四人。なまえと綱海達2組は白団で、キャンと音村達1組は赤団。そして3組は青団と呼ばれ、大海原中の体育祭はその三つの団で競い合う。それぞれの団には団長がいて、団の中心的存在となる。総団長はそれをさらにまとめる役で、選手宣誓やエール交換の際の声出しなどをする。綱海は推薦されて、その役に就いたのだった。

「じゃあ、条介のエール姿は必見だね」
「俺もキャンもエール交換出るよ」
「え、キャンも?かっこいい!」
「やってみたかったんだ」

キャンは嬉しそうに笑う。

「わたしは台風の目だけ出るから、応援よろしくね!」
「敵に応援頼むのー?」
「応援してくれないのー?」
「じゃあ、なまえの時だけ応援してあげる」
「やったー!ちなみにキャンは何出るの?」
「女子リレー!」
「おお、さすが!足速い人が出るやつだ」
「そうなの?」
「俺もリレーだぜ!」
「俺も、アンカー」
「どうせわたしだけ足遅いですー」
「それなまえが勝手に言ったんだよ」

笑いながら歩いていると、学校が見えてくる。体育祭の練習をしている人の姿もちらちら見られた。明日からはエールの朝練が始まるので、この人数も増えるだろう。







あっという間に忙しい準備期間は終わり、体育祭。みんなが競技の応援に燃えている中、団の応援席から少し離れたところで、ジャージ姿でキャンとティナにくっついているのは、なまえだった。

「勝った勝ったー!」
「やったわね、なまえ」
「キャンが応援してあげたもん」
「ありがとうキャン!」
「でも総合点数なら、赤団のが勝ってるんだから!」
「次の男子リレーで巻き返すもんね!」

そう言って三人はトラックを見た。男子リレーの選手の入場を知らせる放送が流れて、応援席は一気に盛り上がる。男子リレーは、一年から三年まで、団の男子が8人、ごちゃまぜで行うリレーだ。白団の一番は、綱海だった。得点のとりどころであり、最終競技であるこのリレーには、サッカー部がほとんど全員参加していた。

「条介がぶっちぎるんだから!」
「こっちだって、一番の歌舞天寺は足速いんだよー」
「かっ、歌舞天寺くん?どこっ?」

ティナがぴくんと反応した。きょとんとするキャンと、ニッと笑うなまえ。

「条介の横だよ、ティナちゃん」
「ほっ…ほんと…」

切なげな表情のティナの横顔は、とても絵になっていた。

「ティナちゃん、もしかして、」
「ちっ、違うわよ!」
「まだなんにも言ってないよ」
「でも違うの!」
「ふーん…?」

キャンは何か納得いかなそうな表情で、しかし追求はしなかった。ティナは見えないように顔を隠していたけれど、頭につけたハイビスカスのように、その頬は赤くなっている。

「でも歌舞天寺くんがリレーってちょっと意外」
「なんで?」
「個人プレーのが好きそうだから」
「あー、それはそうなんだけどね、でも足速いから、クラスのみんなが出てって」

話している間に、スタートの位地につくランナー。話は中断になり、三人も応援に加わる。

「条介ー!頑張れー!」
「やっちゃえ歌舞天寺ー!」
「歌舞天寺くん、頑張って…!」
「え?ティナちゃんなんて?」
「や、やだ、綱海先輩頑張ってって言ったのよ!」
「あ、スタートした!」

ぱんっ、と気持ちのいい音が響き、赤と白と青の襷をつけた三人が一斉に走り出した。僅差で歌舞天寺がリードしている。三人がなまえ達のいるコーナーに差し掛かった時、なまえが身を乗り出して叫んだ。

「条介ーっ!負けるなーっ!」

綱海はコーナーを曲がりながらちらりとなまえの方を見ると、ひとつウインクをして、白い歯を見せた。それから一気にスピードを上げると、青団のランナーと歌舞天寺を抜いて一位に踊り出る。なまえは興奮して、キャンの肩を掴んでガクガク揺らした。

「見た?キャン見た?もーっ条介かっこいー!」
「わかったわかった揺らさないで!」

綱海はトップで次にバトンを繋いだ。白団の応援席から大歓声があがり、綱海は手を振って答える。その間にも第二走者、第三走者とバトンは渡っていく。三つの団はほぼ横一列。勝敗はアンカーに託された。赤団は音村、白団は古謝、青団は池宮城。奇しくもサッカー部対決である。

「古謝頑張れー!でも楽也も波留も頑張れー!」
「あらなまえ、白団の応援じゃないの?」
「マネージャーだから」

笑って話しているなまえ達の横を、本気モードの部員達が走り抜ける。今はフォワード二人が少しリードしていた。

「いけいけ古謝!」
「なまえ、マネージャーは?」
「今はそんな場合じゃないよティナちゃん!」

たくさんの声援があがる中、フォワード二人はデッドヒートを繰り広げていた。ゴール前の直線で、二人の間に火花が散る。お互い大海原のストライカーとして、負ける訳にはいかないのだ。ゴールテープぎりぎりまで抜きつ抜かれつの激しい勝負が続き、先にテープを切ったのは、古謝だった。なまえはティナの手をとってぴょんぴょん跳ねた。

「やったー!逆転一位だよティナちゃん!」
「嬉しそうね」
「勝負はなんでも勝たなきゃ!ティナちゃん嬉しくない?」
「もちろん嬉しいわよ。でもそれより、私は彼が見れたから満足…」

後半、少し声をひそめて照れながら言ったティナに、なまえはにっこりした。と、そのとき、放送がかかった。

「あ、エールやる人の集合かかってる!」
「行ってらっしゃいキャン!」
「うん、見ててね!」

着替えと準備の為に、一旦校舎の方に戻るキャン。なまえとティナはその背中に手を振ってから、白団の応援席に戻った。







「マネージャー!」
「あ、潜!」
「やったな!優勝だ!」

戻ってきたなまえに駆け寄るなり、その手を掴んでブンブンと振る平良。なまえもまた飛び跳ねて、喜びを分かち合っている。

「さすがサッカー部同士、行動がおんなじね」

サッカー部のハイテンションに乗り切れない大人なティナは、盛大に盛り上がる二人を見てくすっと笑った。

「潜、エール出なかったんだ」
「おう!俺揃えんの苦手だから」
「なるほど」
「東江と古謝は出てる」
「目立つの大好きだもんね!」

そうしてしばらく話している間にエールの準備が終わり、太鼓の音と共にグラウンドに、各団の色の鉢巻きをした学ラン姿の生徒達が溢れた。

「綱海先輩、真ん中にいるわね」
「うん、総団長だもん!」
「かっこいいわね?」
「う…うん」

三つの団の団長を囲むように、他の団員達が綺麗な円を描いて並ぶ。綱海の掛け声で、全員が一斉に構え、エールが始まった。全員の声と動きがぴったりと合っている迫力に、見ている方が圧倒される。全ての団へのエールが終わり、一瞬の静寂の後、大きな拍手がグラウンドに響いた。

「はー、すげーな!やっぱ来年は俺も出ようか…って、みょうじ?お前、泣いてる?」
「は…はあ?!泣いてないよ馬鹿!」
「馬鹿ってなんだよ!だいたいお前目ぇ赤いんだよ!」
「これはっ…擦ったの!」
「なんで隠すの?なまえは綱海先輩が格好よくって感動して泣いちゃったのよね?」
「ち、が、う、ってば!感動したけど綱海がどうとかじゃ…」
「なまえ、目だけじゃなくて、顔も赤いわよ?」
「だあー!」

なまえは平良の首にかかっていたタオルを奪って、顔を隠した。ティナの楽しそうな笑い声と、平良の冷やかす声だけが聞こえる。

「なまえ、整列だって」
「つーかお前、タオル返せ!」
「あー!もうちょっと!」
「ほらほら行くわよ」

ズルズルとグラウンドに線を引きながら整列する白団に加わるなまえと、引きずるティナと平良。こうして年に一度のビックイベントは終わっていくのだった。


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