友達以上恋人未満。

チェレンにとっては、幼なじみというのはそれ以外の何物でもないしなってはいけないことだった。

チェレンはトウコもベルも好きだった。
それが恋愛感情を含んでいるかは分からない。分からないけれども、どちらか1人を選んでこのままの3人の関係を壊すなんてことがないでいられるならそれで良かった。チェレンには2人が大事だったし3人で過ごす時間が大切だった。



「恋人が出来たの」

そういきなりトウコが切り出した時、殴られたみたいな衝撃を受けながらも、どこか頭の片隅で「ああ、やっぱり」なんて思っていた。いつかこんな日が来ることなんか簡単に予想がついたことだ。

「へえ、そう。おめでとう」

自然過ぎるくらい落ち着いた返事ができたことを自分で褒めてやりたい。
けれど隣にいたベルは俯いたままただ黙ってた。

てっきりベルなら大袈裟に喜んで相手を聞きたがると思ってたのに。やっぱりベルもショックだったのか、
そうやってベルを気にする僕に気づいたのかトウコが言った。

「あ、ベルは結構前からもう知ってるから」


…何だって?

今度こそ僕はどうしようもなく絶句させられた。

その言葉の意味するところはつまりベルには話してたのにトウコは僕には話してなかったってことで、幼なじみは2人なのに話したのは1人ってことはつまりそれは…

「…ごめん」

追い討ちをかけるようにベルがもじもじしながら謝まってくるから、より一層惨めさだった。
正直トウコの最初の発言よりショックだ。

「じゃ、そういうことで」

うちひしがれてる僕を置いてトウコはいつものような快活さで言うとまだ申し訳なさそうにしてるベルを連れて行ってしまった。

そのまま彼氏の話でもくるんだろうか。

分からないけど、とりあえず今夜は泣こうとチェレンは決めた。





やっぱり同性だと話しやすいのか。うん、きっとそうだ。そうじゃないと困る。

いつもよりも長くなった風呂を終えて、チェレンは悶々とした気持ちで階段を上がっていた。

昔はいつも、今考えたら笑っちゃうような悩み事とかその日あった楽しいこととか、全部3人で話してたのに。よく僕の部屋で3人で集まってた。トウコもベルも僕もベッドに3人で詰めて座って…そうそう、丁度今みたいな感じで……

……え?


「チェレン遅っ!」

「わ、ごめんねチェレン!窓が空いてたから…」

いやいやいやいや、ナニコレ。
勝手に部屋に入ってきてることとか、何で入ってきてるとかそれ以前に…

「な、何で2人ともそんなに近いのさ?!」

正直近いというか近すぎるというか、危ないというか、何と言うかベルに被さるようにトウコの体があって、つまりまあ一般的には『押し倒して』る状態を指すような体勢でいるわけで。

僕が求めてたのは釈明によるこの混沌とした空間の収束だったのに、トウコは平然として爆弾を投下した。

「キスしてたからよ」

「わ、トウコってばぁ!」


眼鏡にヒビが入った気がした。

「だって君恋人が…」
「それ、ベルのこと」

それじゃあ、結構前から知ってた、じゃなくて最初から知ってたんじゃないか、当事者なんだから!

平常心平常心平常心、言い聞かせるように深呼吸して再びトウコに向かう。

「…このことは他の人には絶対に」「絶対言って。言いふらして。チェレンに一番に教えてあげたかったから、今まで我慢してたのよ?」

そんな心遣いいらないよ!

これからはやっとベルが私のものだってこと知らしめられるわ!と、いたずらっぽく目配せするトウコと、それを赤くなりながらも幸せそうに頷いたベルに泣きそうになる。

「…1つだけいい?」
「何?」

人の気も知らないで、トウコは長いしなやかな腕でベルを抱きしめてベルはそんなトウコに赤くなりながらとっても嬉しそうにしてて…ああ



「…僕はどっちに失恋したの?」





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