退化へと進む | ナノ




その電車は走るにつれ日常から徐々に遠ざかっていくかのようだった。

長い長いトンネルの闇の中を、二人を乗せて電車が駆けていく。
外からは暗闇が見つめ返してくるだけだったのでノボリは窓の方を見やるのをやめた。トンネルを照らすものは何一つ備わっていなかったのだ。

「一体、今は朝なのでしょうか昼なのでしょうか夜なのでしょうか」
「知らなーい」

傍らに立つクダリが答える。車内の切れかかった蛍光灯照らされてクダリはどことなく青白く見えた。

場違いなほど明るいその返答をノボリは既に予期していた。
問いかけたにも関わらず、片割れがそれを知らないことを、ノボリは既に知っていた。ノボリが知らないならば、つまりクダリも知らないのだ。

この電車がどこから来たのか、
ここまでどれ程走ったのか、
このあとどれ程走るのか、
前に進んでいるのか後ろに戻っているのか、
そんなことは二人には分からない。それらに答えがあるのかも定かでないし、あったとしてもそれら全てがノボリもクダリにも意味成さない些細なものだった。ノボリにとってクダリの体温以外に気にかけるものがなければ、クダリはノボリの体温以外気にかけるものはなかったのだ。



ガタン、ガタン、


絶え間なく響く電車の走る音が響き、電車の動きに合わせて吊革が揺れる。
電車は一向に速度を緩める気配がない。


「ねえノボリ。ぼく、この電車がどこに向かってるのか気付いちゃった」


その先をクダリは言わなかった。もう片割れもそれに気付いていることに、既にクダリは気付いていたのだった。



最後の蛍光灯は音もなくその役目を終えようとしていた。



産道を駆けゆけ




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100&200HITリクエスト 『サブマス』
だちょりかへ!
考えるんじゃない…感じるんだ!byブルース・○ー



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