トウコは昔から、髪をとかすのは得意じゃなかった。
ポニーテールに結うために髪をとかす度、活発なトウコは途中でその行為に飽きてすぐ乱雑になる。
ちょうど今も、トウコはもう!とか痛っ!とか言いながら長い髪を櫛に勢いをつけすぎて既に何本か抜いてた。つい見かねて櫛を取り上げて、ふぇ?っと情けない声をあげるトウコをよそに髪をとかしてやることにする。
「いきなり生え際からやろうとするからいけないんだよ。こういうのは毛先の少し上のほうから始めるんだよ」
「…チェレン、やっぱり薄毛が遺伝しないか気になる?」
どうしてそういう話になった。
反論しようとしたけど、トウコが珍しく大人しくされるがままになってたから無視することにした。
「すごいすごーい!」
絡まった毛を全部ほぐしてやるとトウコが歓声を上げる。
「トウコは苛つきながらやるから絡まるんだよ」
「えーっ?」
「せっかく、」
綺麗な髪をしてるのに
あ。
無意識だった。完全に失言だ。自分で言って自分で恥ずかしいなんて最悪だ。トウコの真後ろに立っているせいで顔色が伺えないのもあって更に後悔した。
今すぐ櫛を放り出して逃げ出したかったけど、ボクの性格上中途半端にしてこのまま行ってしまうのは嫌だった。気恥ずかしさに耐えながら髪をとかしていく。
「ねぇ」
いきなりトウコが体を後ろに仰け反らして倒れこんできて、彼女の長い髪がバサバサと床に落ちる。
「いきなり何」
トウコのいつも通りの奔放な行動にさっきの発言を気にしてたのはボクだけかと思うとなんだかさらに恥ずかしくてつい無愛想な返事をしてしまった。
えーっとね、トウコは逆さまのまま考えこむようにした後ボクを見つめた。
「チェレンがハゲてもわたしは好きだよ」
「…そんな告白嬉しくないよ」