染めかえてあげる | ナノ




Nは何も知らない。
正確には何も知らされてない。


Nと関わっていくたび、そんな思いがトウヤの中で強くなっていった。


「…ホントNって常識ない」
「そうかな?」


あれほど一人で出歩くなと言ったのに、都市で行き倒れ寸前のNを保護し森に連れてきてかれこれ10分。
Nの素行は危なっかしくて見てられないけれど、目を離すとすぐこれだ。
それもこれもNが数式とトモダチ――すでに何匹かの森のポケモンがNの呼び掛けに反応して集まって来ている――以外の知識が極端にないからだった。
集まった一匹にNが触れてやると、シキジカは嬉しそうに身震いする。


その姿は世界のどこよりも安全に見える、ただ反対にポケモンが居ない場所でのNは怖いくらい無力だ。

都市でのNを思いだしながら、トウヤは心の中で呟いた。

Nのせいじゃないのに。悪いのは英雄とか王とか訳の分からない色んなことを押し付けておきながら、何一つ教えてやろうとせず、N本人を見てやろうとしなかったあいつらなのに。何一つNの責任じゃないのに。


「可哀想なN」


耳元で自分の声がした。
我にかえると感情の読み取れないNの双眼はしっかりこちらを捉えていた。


ごめん、

謝るよりも先にNの口は開いていた。


「嬉しそうだねトウヤ」



冷水を頭からにかけられたみたいに全身が冷えていく。慌てて耳を塞いだのに、その言葉は鼓膜を通って弭小骨やら渦巻き菅やら訳のわからないものを通過して脳に入り深くこびりついてしまって、もう、出ていくことは、きっと、ない。





:無垢


(可哀想可愛そう)