眩い。これは光。太陽の光だ。窓から射し込む太陽の光だ。朝が来たんだ、全部、夢だったんだ。
よかった。
簡易ベッドから這い出して、クダリは明かりも着けず部屋から抜け出した。
まだ薄暗い廊下に無機質なクダリの足音が響く。向かった先は片割れ、ノボリの元だった。
「ノボリ」
「はい」
ノボリはいつも通りだった。ノックもせずに開け放したドアを抗議の異を込めて見やるノボリを見ていると何だか安心した。
「ノボリが死んじゃう夢みた」
ぽつり。唐突なクダリの言葉に何でもないようにノボリは応える。
「どのようにですか?」
「刺される、ナイフで」
「誰によってですか?」
沈黙。
「ぼくに」
吐き出したクダリの言葉は部屋の隅の暗がりに吸い込まれて消えていった。
「なら、いいですよ」
『クダリになら、いいですよ』
嫌だ。
激しいデジャヴに目の前がチカチカする。
耳の奥でたくさんのガラスが叫びながら落ちて割れていった。
「夢でのノボリもそう言ったよ」
なんだか声が震えてうまく喋れない。
「ぼく、ノボリを殺しちゃった」
ノボリを刺した感触がやたら鮮明で、手にはまだナイフを握っていてノボリを殺したのは夢じゃない気がして、本当にノボリをなくしてしまった気がして何本ものナイフで刺されてるみたいだった。
「クダリ、」
囁いたノボリの声はあまりに優しかった。
「クダリの夢の中でわたくしを殺したクダリをわたくしは赦します」
だから泣かないで下さいまし
泣いてないよ、って言おうとして出てきたのは何故だか渇いた嗚咽で、夜は明けたはずだったのに、日はクダリの目の前で完全に落ちていくところだった。