十本の温度 | ナノ





「…Nって、馬鹿なんだな。」
「馬鹿って何?」

せっかく並んで手に入れたヒウンアイスは人がジュースを買いに行く間にNの手の上でべとべとに溶ける運命をたどってた。
話を聞くにどうやらNはヒウンアイスをそのモチーフとなったポケモン、″トモダチ″のバイバニラだと思って必死に会話を試みているうちに当のアイスが溶けてしまったらしい。想像に難くないその光景は怪しいを通り越して怖い域だ。
悲惨な面持ちで手の平の溶けたアイスを見つめるNについつい溜め息をついた。

「…それ、食べ物だから。」
「え?」
「手、出せよ。」

ハンカチで若干強めにNの手からアイスを拭き取るとNは痛いよトウヤ、とだけ言った。

「トウヤの手の温度は高いんだね。」
「お前がずっとアイスを持ってたからだろ。」
「そっか。」

Nにとっては悲惨な光景と化したアイスは返事をしないトモダチが手のひらで溶けていった結果なんだと思うと少し悪いことをした様な気がして、Nの顔を見ないようにしながら湿っていないハンカチをぐいぐいNの手に押し付けた。痛いよトウヤ、飛んできた二度目のNの抗議も無視して白いべたべたを拭い去ってそのまましっかりNの手を握る。

「これから」
「うん。」
「Nの傍で、色んなこと、教えてやるから。」
「うん。」


「…手、繋いだこと、ないだろ?」



赤くなった俺を見てNは不思議そうにふふと笑った。











:アイスクリームシンドローム
110330