チョロはチョロネコだった。
レパルダスに進化することも考えずそう名付けたチョロの主人は、やっぱり後のことを考えない人間で、チョロ以外のポケモンで手持ちを固めてしまうとあっさりとチョロを捨てた。

しかし、チョロにとって主人は必要だった。野生に還れなかったチョロはすぐに、捨てられた名前も知らない砂漠で飢え、空かない目で主人を探し、枯れた喉で主人の名をミィミィ鳴いた。生まれてすぐ引き取られたチョロにとって主人はチョロの全てだった。

そうやってそのまま息絶えようとしていたチョロは不意に大きな手で持ち上げられるのを感じた。もう抵抗する気力もなかったチョロは、ただぼんやりと自分の周りに何かが集まるのを感じた。


――ここにも、捨てられてるぞ


大きな手の主たちはそう言い、チョロはただなすがままにそれに連れていかれた。



連れていかれた先は城だった。-----------------------------------



「おいで。」
チョロは落ちないようにNの肩にしっかりしがみついた。地面のないNの部屋はどうも慣れそうにない。つい爪を立てると、Nがいつもと違う深紅の分厚い服を来ていることに気がついた。

『N、その格好、どうしたの?』

そう言うと幼い城の主、Nはチョロを軽く撫でつける。

「今日は特別な日なんだよ。」
『何の日?』
「戴冠式だよ。」
『戴冠式って、何?』
「ゲーチスに請われて、プラズマ団の王様になるんだ。」
『王様って?』
「民を統べる者だよ。」
『ふぅん。』

会話はNがチョロの喉を撫でたので終わった。チョロは喉を鳴らしながらただ幸福だと感じた。Nのためなら何でもできる気がした。恐ろしく外の世界に無知なNをずっと守ってやろうと思った。

『王様になったNは何をするの?』

そう聞くとNは真剣な表情で黙りこんだ。
チョロは悪いことを聞いたのか不安になったけれど、しばらくしてNがチョロに数式について語る時の様な口調で、英雄や理想や真実について何かを呟きだした。
こうなってしまったNは止められない。
チョロはせっかくの大切なNとの時間の浪費に不機嫌に鳴いた。



「N様。」

Nを呼ぶ声。ゲーチスだ。
ゲーチスの声でNはトランス状態から覚めた。

「今向かう。」

ゲーチスはチョロを一瞥すると、お召し物に毛がつきますよ、とだけ言うと後は無関心な様子でNを待った。

『もう行くの?』

そう言うチョロをNはそっと床に降ろし、行ってくるね、とだけ言った。

たくさんの人に囲まれて去っていくNはどこか遠い人の様だった。





それから長い時が流れた。



『お帰り、N。
こんなに忙しいなんて、王様はつまらないのね。』


Nはあれから背が伸びた様だった。Nが帰ってきたのが嬉しくてチョロはすぐにでも抱き締めて欲しかったのにあまりに長らく部屋を開けたNに軽口を叩かずにいられなかった。
チョロをNは何も言わず抱き上げた。
目の悪いチョロにも識別できる近さまでNの顔が近くなる。Nのは人形のような虚ろな空色の瞳に映されてチョロは一瞬空に落下した気がした。

「僕は」

Nの瞳一杯にチョロが映る。


「君たちを、人間から解放するんだ。」
そう言い聞かせるように言ったNの瞳には揺るぎない固い決意と意思があって


今やもうNは王様で、Nにはたくさん背負うものがあってNの瞳はチョロの他に映すものが有りすぎて




また捨てられた気がして悲しかった。





百万回死んだあの子




猫は王様なんて嫌いでした






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*百万回/生きた猫オマージュ
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