本日もまた、朝食の素晴らしく美味しそうな匂いとともに起床した。

まとわりつく眠気を振りはらい、カーテンを開けて空を見る。一面の群青に白。快晴時々曇り。即ち本日も異常なし。

そういえば昨日も一昨日も異常はなかった気がする。まあ、明日だって明後日だってきっとそうだろう。

大きく伸びをして、階段を下る。

「おはよう、セイバー」

純和風の居間にて、朝の挨拶と共にこちらに微笑みかけるアイリスフィール。

温かい微笑みに心を癒されつつ―――その隣に座る男からの明らかな敵意に全身を刺された。







「それで、キリツグが何と言ったと思いますカリヤ?!」
「…さ、さあ…?」
「『アイリ、これ以上こんな穀潰しサーヴァントのためにご飯をよそう必要はない』ですよ?!何ですかあれ?!姑ですか?!」
「…そ、そうなんだ…?」
「しかも絶対に士郎がいない時を狙って言ってきますし……まだ、直接『出て行け』と言われた方が痛みが少ないといったものですよ!
…あ、サクラ、おかわりを下さい」
「出て行って下さい」

あと一歩でラスボス形態まで反転寸前の桜も、食事に必死な騎士王は気にしていない。間桐邸の蓄えを一人で食い潰すほどの勢いだ。

「ああサクラ、これは美味ですね」
「…もうお腹いっぱいになったなら帰れるでしょう?!」
「さ、桜ちゃん。一応、倒れてたんだからもう少し休ませてあげたほうが…」
「ほら、そうやっておじさんが優しいからこの駄ーヴァントがつけこんでくるんですよ!おじさんは私にだけ優しければ十分なんです!」
「おかわりはまだですかサクラ!」
「黙ってて!」

まさに、混沌極まる。

空気を読んだライダーがこっそりバーサーカー(とついでに慎二)をこの場から連れ出してくれなかったら一体どうなっていたやら。


まさか、倒れてた女の子を助けたらこんなことになるなんて。

一発触発の雰囲気に雁夜は冷や汗をかいて、なおも食事を続けているセイバーを見た。

俺がこの場をなんとかしなければ…!

「あ、あのさセイバー、」
「決めました」

そんな決意も軽く割り込み、最優のサーヴァントは高らかに宣言した。



「このまま間桐に住みます」

「はああああああぁッ?!!!」



間桐邸に桜の絶叫が響いた。











…困る。それは困る大変困る。ただでさえ私とおじさんの間には兄さんというでっかい邪魔者がいて、とっても良い子達とはいえサーヴァントが二人もいるのに、こんな、よりによって一番気のきかないサーヴァントがいたら、いたら………私の『おじさん幸せ計画★』は全部水の泡………!


「私がカリヤを守りますよ」
「えッ、あ、ちょ、ちょっと…」

既にセイバーは、おじさんの手を両手で包み込み、口説き落とす気満々でいる。
バックに満開に咲き誇る薔薇が大量に見えるほどの、半端じゃないイケメンモード。不味い―――!

「駄目です!絶対駄目です!」
「…サクラ、」
「早くその手を離して下さい!マスターが欲しいなら遠坂にでも行けばいいじゃないですか!」
「(あそこにはアーチャーがいるから)私にはカリヤしかいませんよ」
「?!」
「騙されないでおじさん!」


――早く。何としても追い出さなければ。絶対に私のおじさんは渡さない。髪の毛一本、腕一本だって渡さない。

そう、追い出さなければ。


例えヒロインの座を追われたとしても!



「大丈夫ですよサクラ」
「……えっ?」
「…嫉妬、ですね?」

告げる声は、まさに黒化を始める一歩手前だった。

――分かってくれたんだろうか。



私が一番おじさんの側にいたいことが、


サーヴァントであれなんであれ、誰にもおじさんを渡したくないことが。


桜の手をとり、セイバーは凛々しく笑いかけた。






「あなたも、ちゃんと守りますから」
「ほんっとにあなたは人の心が分からないんですね!!!」