「…ラン……サ…」 熱病にうなされている様に、女はしきりにうわ言を漏らしていた。 汗に張り付いた燃えるような赤毛が、美しい女だった。 月明かりに照らされ、床に身を預けた女の姿は一つの芸術品のようだ。だが別段何といった感慨もなく、舞弥は切り落とされた女の左手の止血作業に取りかかった。 ここで死なれてしまっては困る。少なくとも、今は、まだ。 この女が死んでしまってら、切嗣の計画が不意になってしまう。 それだけは避けたかった。勿論、それは切嗣のためでもあるが、死に逝くこの女の死を無駄にしないためと、彼に徹すると決めた舞弥自身のためでもあった。 闇に転がされた左手を見やる。令呪を奪えない舞弥にとって、左手を回収する必要はない。従って女の左手はからっきし舞弥にとっては無意味なものだった。 その左手の、しなやかに伸びた5本の白い指も、その先に存在する美しく磨かれた爪も。 令呪と同等に舞弥には無意味だった。 爪を磨いたって、髪を鋤いたって、最後には切り落とされてしまうのだから。 作業に費やした時間を確認する。もうじき、キャスターの殲滅が終わる頃だろう。無線を持ち、来るべき切嗣の連絡を待ちながら、舞弥はまだうわ言を言っている女を一瞥した。 爪を磨いたって、髪を鋤いたって、そんなもの一つだって、 切嗣の役に立ちはしないのだ。 爪を磨く |