Question,(セブルス)


貴方を殺してから、私は校長になった。

以前は賑やかだった大広間での食事も、今では誰一人として喋ろうとはしなくなった。

生徒の顔は皆下を向き、誰も顔を上げようとしない。
体罰が当たり前になり(カロー兄妹が主だが)、校舎からは希望の光が消えていった。

軍隊のように隊列を組み、足並みを揃えて行進する生徒の姿を、セブルスは階段の途中の窓から、ひっそりと見ていた。

すっかり変わり果ててしまった、嘗ての自身の学舎の光景。

4月も下旬だというのに、空には暗く厚い雲がかかり、吹き抜ける風は何処か冷たく感じた。


突如、左腕に熱く焼けるような痛みが走り、セブルスは顔を歪めた。

きっと今頃、ポッター達はあの方を倒す為に各地を移動しているのだろう。
彼等が何を探し、そしてあの剣を何に使用するのかは私には解らない。
結局私は貴方から、この戦いの最も重要な部分を教えられる事は無かった。
過去が過去な為に、何処か信用されない部分があったのだろう。

私は、貴方を信じていたのに。


貴方を殺す事を約束した時、急に死が怖くなった。
あの方の隣で、今まで数多くの人の死を見てきたのに。
知っている人が、知らない人が、緑の閃光を浴びては次々と倒れていくのを、心を必死で閉じて、ただ見つめていた。
救える筈の命は、私の目の前で消えていく。
何も考えてはいけないと分かっていても、必ず罪悪感は残る。
自分が関わったとなれば、尚更だ。

たった一つの呪文で、他人の命を奪ってしまう。
その脅威に思わず身震いした。
今でもあの感覚が、腕に奇妙に絡み付いている。
ぞわりと、何かが自身から抜けて行く感覚。
閉じた筈の心は悲鳴を上げ、私の中で何かが死んだ。
後悔と絶望は常に私の隣に存在し、悪夢へと変化した。

眠りは常に浅い。
深く眠ってしまうと、あの瞬間が、フラッシュバックのように蘇ってしまうから。

嫌な予感がしてならない。
自分は死ぬのではないか、という予感が。
あの子を護り抜く事が出来ずに、この世を後にしてしまうのではないか、と。
けれどもあの子は、死ななければならない。

死。

彼が、果たしてこの事実を受け入れる事が出来るのだろうか?
しかもそれを、貴方を殺した張本人である私から伝えられたとなれば。
きっとあの子は私を殺そうとするだろう。
彼女と同じ瞳に、憎悪を滲ませて。



死は常に覚悟している筈だったのに。
彼女の許へ逝きたいと願っていながら、まだこの世が惜しいとは…。


セブルスは自嘲じみた笑いを浮かべた。


突如冷たい風が吹き抜け、セブルスはぶるりと身を震わせた。


――…ダメだ。
    考えてはいけない。

心を、空っぽに。


ローブの上から、ぎゅっと心臓の辺りを握りしめた。

一度目をゆっくりと閉じ、そして再び開いた時には、セブルスの闇色の瞳は、この景色をただ硝子玉のように、無機質で無感動なモノとして映し出しているだけだった。

そこに感情など、無い。



セブルスはローブを翻すと、校長室のある場所へと階段を上って行った。





死へのカウントダウンは、ひっそりと始まっていた。





  Answer,
  (私はまだ、)





 










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