猛暑注意報(ルサ)
ミーンミンミンミー…
「あっつ…」
テッカニン達が騒ぐ、夏。 強い陽射しに加え、森の低い雑草からの熱がボクを襲う。 遠くの地面に、蜃気楼が見えた。
「サファイアー、どこー??」
大声で叫ぶが、返事がない。
「サファイアー??」
草を掻き分けながら森を進むこと、早1時間。 オダマキ博士からサファイアを呼んできてくれと頼まれ、秘密基地に行ったものの、彼女の姿が無かった。 不安になって、森の中で彼女を探しているのだが…
ボクは身体中草に負けてしまい、みみず腫れが痛くて痒くてしょうがなかった。 さらに、先程木の根に足を取られ転んでしまい、服が泥だらけになってしまったのだ。
「まったく…。こんなの…美しくないよ…!!」
額から流れる汗を拭いながら、ボクは呟いた。
生憎、手元を全て家に置いて来てしまった為、自力で彼女を捜さなければならなかった。
ガサガサッ
「!!」 不意に、叢が揺れた。
何かいる…!
咄嗟に身構え、揺れた叢を凝視する。
ガサガサッ
「ジグゥ〜!!」 「!!…なんだ、ジグザグマか」 飛び出してきたのは、ジグザグマだった。
「ジグーッ!!」
何か慌ててる…?
「どうしたの??」 「ぐぅ〜まっ!!」 ぐいぐいとボクのズボンの裾を、必死で引っ張っている。 「何かあったのかい?」 「ジグッ!!ぐまぁーっ!!」
肯定したように頷き、ジグザグマは叢へと戻って行く。
「ぇ、ちょっと!!待ってよ!!」
ボクは必死にジグザグマを追いかけて行った。
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「ハァッ…ハァッ…」
しばらくして、ジグザグマの動きが止まった。 何かをじっと見つめ、そして、困ったようにこちらを振り向く。
「…?」
汗を拭いながら、ジグザグマが見ていた方に目をやる。
誰かが倒れている。 見覚えのある、亜麻色の髪。
「サファイア!!!!」
ボクは叫びながら駆け寄った。
返事が無い。
「熱い…」
彼女の赤い頬を触ると、とても熱かった。 意識は無い。 熱中症だ…
「クソッ!!」
水など持って来ていなかった。
どうすれば…!?
必死で考えをめぐらせる。
そうだ!!
「ここまで連れて来てくれてありがとう、ジグザグマ。一つお願いがあるんだ。ハスボーを呼んで来てくれないかい?」
「ぐまっ!!」
そう言うと、ジグザグマは叢の中に消えた。
ここにはハスボーが生息している。 ハスボーが居るなら、熱中症を治せる筈だ。
「よっ…と」
ジグザグマがハスボーを呼びに行っている間、ボクはサファイアを木陰へと移動させた。
ぐったりとした身体は、未だ動く気配がない。
近くにあった大きな葉っぱをちぎり、扇いだ。
ガサガサッと音がして、ジグザグマがハスボーを数匹連れて戻ってきた。
「ありがとうジグザグマ!!」 「ぐまっ!!」 お礼を言い、ボクはハスボーに向き直る。 「ハスボー、お願いがあるんだ。水を分けてくれないか。この女の子が熱中症で倒れてて、意識が無いんだ…っ!!」
泣きそうになりながらボクは頼んだ。
「はぁぼ!!」
ハスボーはそう言うと、互いの頭上の葉に水を溜めた。 ボクはその水に、持っていたタオルを浸けて水を含ませ、サファイアの口元をゆっくりと濡らす。
「サファイア、飲んで…」
サファイアの口を少し開け、ギュッとタオルを握って水を少しずつ注ぐ。
もう一枚持っていたタオルにも水を含ませ、サファイアの脇に挟み込む。 「ハスボー、ボクらの周りで"みずあそび"をしてくれ」
バシャバシャッと音を立てながら、周りの地面が濡れた。
周囲の気温が、少し下がった。 「サファイア、サファイア!!」
ボクは、肩を揺すりながら声をかけ続けた。
なかなか返事が返ってこない。 泣きそうだった。
数分後、ピクッと先程よりも体温の下がった肩が、小さく揺れた。
そして、ゆっくりとサファイアの瞼が開いた。
「る…びぃ…?」 掠れた声で、サファイアはボクの名前を呼んだ。
「サファイア!!あぁ、良かった!!キミの返事がなかなか返って来なかったから、もう手遅れなのかと…っ!!」
ボクは、思わずサファイアを抱きしめた。
ハスボーの"みずあそび"で身体はびしょ濡れだったが、そんなのは構わなかった。
「どうしてこんな所で倒れてたのさ…っ!!」 涙を堪えながら、ボクはサファイアに聞いた。 「野生のジグザグマが…、木に登ったまま…降りれんく…なっとって、…。その子を…助けた後に…。急に眩暈がして…。そっから記憶がなか…」 「ジグザグマ…?じゃあ、キミが助けたジグザグマが、ボクを呼びに来てくれたんだね!!」
ジグザグマの方を見ると、こちらを心配そうに見つめていた。 ハスボーも同様に、こちらを見つめている。
「キミ達のお陰で助かったよ、ありがとう!!」
そう言って、お礼としては十分ではないが、彼らにポロックをあげた。
ジグザグマ達は美味しそうに食べると、森の中へ消えて行った。
「さてと、これから博士の研究所に戻るよ。ボクは応急処置しかしてないからね」
ボクは、サファイアを背負いながら言った。
「いぃ…、自分で「歩かせないよ。まともに歩けないのに強がり言わないの!」
ボクはぴしゃりと言った。
「…」
ザクッザクッ…
ボクはサファイアを背負って、来た道を速足で戻る。
「たまにはさ、甘えたっていいんだよ。別に恥ずかしいコトじゃない。もっと頼っていいんだよ」
「…すまんち…」
木の根を跨ぐ。 今度は転ばなかった。
徐々に、道が広がっていく。 ボクはスピードを早めた。
「もうすぐで着くよ、サファイア」 「うん…」
ザザッと視界が開けて、今まで忘れていた暑さが蘇る。
オダマキ博士が、玄関で待っていた。
「博士…!!」 「ルビー君!!って、どうしたんだ、サファイア!!」 「熱中症になってて倒れていたんです。応急処置はしました。早くサファイアを涼しい所に寝かせて、水を飲ませてあげて下さい」 ボクは博士にサファイアを預けながら、早口で言った。 「あ…あぁ。すまなかったね、ルビー君」 「いえ、いいんです。それよりも、処置が早くて良かった。では…」
ボクはお辞儀をして、自宅へと向かった。
突如、グラリ、と視界が揺れた。
頭がクラクラする…。
そういえば、ボクは水を一滴も飲んでいなかった。
思い出した途端、口の中が渇くのを感じた。
ヤバい… ボクも熱中症になりかけている…
ふらつく足を無理矢理前に進め、ボクは家にたどり着いた。
「ただいま…」
そう言って扉を開けた瞬間、ボクは意識を失った。
次の日、サファイアは元気になっていたのに、ボクはベッドで寝込んだままだった。
ボクってやっぱり弱いのかなぁ…?
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