猛暑注意報(ルサ)


ミーンミンミンミー…

「あっつ…」

テッカニン達が騒ぐ、夏。
強い陽射しに加え、森の低い雑草からの熱がボクを襲う。
遠くの地面に、蜃気楼が見えた。


「サファイアー、どこー??」

大声で叫ぶが、返事がない。

「サファイアー??」

草を掻き分けながら森を進むこと、早1時間。
オダマキ博士からサファイアを呼んできてくれと頼まれ、秘密基地に行ったものの、彼女の姿が無かった。
不安になって、森の中で彼女を探しているのだが…


ボクは身体中草に負けてしまい、みみず腫れが痛くて痒くてしょうがなかった。
さらに、先程木の根に足を取られ転んでしまい、服が泥だらけになってしまったのだ。

「まったく…。こんなの…美しくないよ…!!」

額から流れる汗を拭いながら、ボクは呟いた。

生憎、手元を全て家に置いて来てしまった為、自力で彼女を捜さなければならなかった。


ガサガサッ


「!!」
不意に、叢が揺れた。


何かいる…!

咄嗟に身構え、揺れた叢を凝視する。

ガサガサッ

「ジグゥ〜!!」
「!!…なんだ、ジグザグマか」
飛び出してきたのは、ジグザグマだった。

「ジグーッ!!」

何か慌ててる…?

「どうしたの??」
「ぐぅ〜まっ!!」
ぐいぐいとボクのズボンの裾を、必死で引っ張っている。
「何かあったのかい?」
「ジグッ!!ぐまぁーっ!!」

肯定したように頷き、ジグザグマは叢へと戻って行く。

「ぇ、ちょっと!!待ってよ!!」

ボクは必死にジグザグマを追いかけて行った。








****************************

「ハァッ…ハァッ…」

しばらくして、ジグザグマの動きが止まった。
何かをじっと見つめ、そして、困ったようにこちらを振り向く。

「…?」

汗を拭いながら、ジグザグマが見ていた方に目をやる。

誰かが倒れている。
見覚えのある、亜麻色の髪。

「サファイア!!!!」

ボクは叫びながら駆け寄った。

返事が無い。

「熱い…」

彼女の赤い頬を触ると、とても熱かった。
意識は無い。
熱中症だ…

「クソッ!!」

水など持って来ていなかった。

どうすれば…!?


必死で考えをめぐらせる。

そうだ!!

「ここまで連れて来てくれてありがとう、ジグザグマ。一つお願いがあるんだ。ハスボーを呼んで来てくれないかい?」

「ぐまっ!!」

そう言うと、ジグザグマは叢の中に消えた。

ここにはハスボーが生息している。
ハスボーが居るなら、熱中症を治せる筈だ。

「よっ…と」

ジグザグマがハスボーを呼びに行っている間、ボクはサファイアを木陰へと移動させた。


ぐったりとした身体は、未だ動く気配がない。

近くにあった大きな葉っぱをちぎり、扇いだ。

ガサガサッと音がして、ジグザグマがハスボーを数匹連れて戻ってきた。

「ありがとうジグザグマ!!」
「ぐまっ!!」
お礼を言い、ボクはハスボーに向き直る。
「ハスボー、お願いがあるんだ。水を分けてくれないか。この女の子が熱中症で倒れてて、意識が無いんだ…っ!!」

泣きそうになりながらボクは頼んだ。

「はぁぼ!!」

ハスボーはそう言うと、互いの頭上の葉に水を溜めた。
ボクはその水に、持っていたタオルを浸けて水を含ませ、サファイアの口元をゆっくりと濡らす。

「サファイア、飲んで…」

サファイアの口を少し開け、ギュッとタオルを握って水を少しずつ注ぐ。

もう一枚持っていたタオルにも水を含ませ、サファイアの脇に挟み込む。
「ハスボー、ボクらの周りで"みずあそび"をしてくれ」


バシャバシャッと音を立てながら、周りの地面が濡れた。

周囲の気温が、少し下がった。
「サファイア、サファイア!!」

ボクは、肩を揺すりながら声をかけ続けた。

なかなか返事が返ってこない。
泣きそうだった。



数分後、ピクッと先程よりも体温の下がった肩が、小さく揺れた。


そして、ゆっくりとサファイアの瞼が開いた。

「る…びぃ…?」
掠れた声で、サファイアはボクの名前を呼んだ。

「サファイア!!あぁ、良かった!!キミの返事がなかなか返って来なかったから、もう手遅れなのかと…っ!!」

ボクは、思わずサファイアを抱きしめた。


ハスボーの"みずあそび"で身体はびしょ濡れだったが、そんなのは構わなかった。

「どうしてこんな所で倒れてたのさ…っ!!」
涙を堪えながら、ボクはサファイアに聞いた。
「野生のジグザグマが…、木に登ったまま…降りれんく…なっとって、…。その子を…助けた後に…。急に眩暈がして…。そっから記憶がなか…」
「ジグザグマ…?じゃあ、キミが助けたジグザグマが、ボクを呼びに来てくれたんだね!!」

ジグザグマの方を見ると、こちらを心配そうに見つめていた。
ハスボーも同様に、こちらを見つめている。

「キミ達のお陰で助かったよ、ありがとう!!」

そう言って、お礼としては十分ではないが、彼らにポロックをあげた。

ジグザグマ達は美味しそうに食べると、森の中へ消えて行った。

「さてと、これから博士の研究所に戻るよ。ボクは応急処置しかしてないからね」

ボクは、サファイアを背負いながら言った。

「いぃ…、自分で「歩かせないよ。まともに歩けないのに強がり言わないの!」

ボクはぴしゃりと言った。

「…」



ザクッザクッ…

ボクはサファイアを背負って、来た道を速足で戻る。


「たまにはさ、甘えたっていいんだよ。別に恥ずかしいコトじゃない。もっと頼っていいんだよ」

「…すまんち…」


木の根を跨ぐ。
今度は転ばなかった。



徐々に、道が広がっていく。
ボクはスピードを早めた。


「もうすぐで着くよ、サファイア」
「うん…」

ザザッと視界が開けて、今まで忘れていた暑さが蘇る。

オダマキ博士が、玄関で待っていた。

「博士…!!」
「ルビー君!!って、どうしたんだ、サファイア!!」
「熱中症になってて倒れていたんです。応急処置はしました。早くサファイアを涼しい所に寝かせて、水を飲ませてあげて下さい」
ボクは博士にサファイアを預けながら、早口で言った。
「あ…あぁ。すまなかったね、ルビー君」
「いえ、いいんです。それよりも、処置が早くて良かった。では…」

ボクはお辞儀をして、自宅へと向かった。


突如、グラリ、と視界が揺れた。

頭がクラクラする…。

そういえば、ボクは水を一滴も飲んでいなかった。

思い出した途端、口の中が渇くのを感じた。

ヤバい…
ボクも熱中症になりかけている…


ふらつく足を無理矢理前に進め、ボクは家にたどり着いた。


「ただいま…」

そう言って扉を開けた瞬間、ボクは意識を失った。














次の日、サファイアは元気になっていたのに、ボクはベッドで寝込んだままだった。


ボクってやっぱり弱いのかなぁ…?
 










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