最期の真実(セブルス)


*「ラナンキュラスに血の雨を」の続き







見なければよかったと、セブルスは後悔した。

崩壊した部屋にあるベビーベッドから、幼い手が伸びていた。
冷たくなった母親を抱き抱えている自分に、抱っこをせがむように伸びている。

その目は母親ではなく、自分を見つめていた。

「あ…、」

彼女と同じ、緑――…


癖が付いてしまっていた。
だから、使ってしまったのだ。

ベビーベッドで未だ腕を伸ばし続けている子供に向かって、開心術を。



脳内を駆け巡る、鮮明なイメージ。


リリーの笑顔。
ジェームズやシリウスの笑い声。
明るい日差し。
箒、庭に咲く花、生い茂る芝生の緑。
途切れ途切れの映像は、次々と場面展開をしていく。

そして、


『ハリー、ママはあなたをとても愛しているわ。パパも、あなたをとても愛してる』

柵越しに見える、涙に濡れたリリーの頬。

『ハリー、どうか強く生きて…』

1階で男の声が聞こえた。
リリーの肩がピクリと震える。
次いで、ガチャン、バンッ、と何かが割れる音や弾く音。
そして、ドサッと何かが床に倒れた音を最後に、1階は静かになった。

リリーの表情が歪み、緑の瞳からは涙が溢れ出した。

『あなたは、私が…――』


リリーがそう言い立ち上がった瞬間に、爆発音と共に開かれた扉。

真っ黒なフードを被った男に、リリーが叫ぶ。

『どうか、ハリーだけは…っ!!お願い…私はどうなっても――』
『どけ…どくんだ、小娘――』
『どうか――』
『―アバダケダブラ』


甲高い悲鳴が響き、緑の閃光が辺りを照らした。
リリーは、まるで糸が切れたマリオネットのように床に崩れ、動かなくなった。

黒いフードの中から、赤い瞳がこちらを睨んでいる。

男の杖先が、目の前で止まる。

『アバダケダブラ』

しかし、放たれた呪文は跳ね返り、男は消えてしまった。


脳内のイメージは、そこで途切れた。



セブルスの身体は、無意識の内に震えていた。

リリーが死ぬ瞬間を、見てしまった。
一番見たくなかったのに。

そして、消えた闇の帝王の行方。
彼は何処へ…――



突如、遠くからバリバリという騒音がこちらに向かって来た。
どうやらバイクのようだ。
家の前でエンジン音がピタリと止んだ。

どちらにしろ、此処から出なければならない。


リリーの亡骸から身体を離し、セブルスは姿くらましをして消えた。



ハグリッドがポッター家に入り、この惨状を目撃するまで、あと―――


最期の真実
(こんな真実、信じたくなかった)











 










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