喜劇の終わらせ方(リドル)
その青年が図書室でパタリと本の表紙を閉じたのは、昼下がりのこと。 禁書棚で堂々と本を読み漁る姿を、誰も見てはいない。
やっと見付けた。
声に出そうになった言葉を、慌てて口の中で転がす。 差し込む日差しに照らされた青年の整った顔は、何処と無く嬉しそうだった。
まずは誰を実験台にしようか…いや、これはもう少し慎重に事を運ぶべきだな…。
そう考えながら図書室から廊下に出た時、青年は遠くから誰かに呼び止められた。
「トム!!」 「あぁ、スラグホーン教授。こんにちは」
セイウチのような髭を蓄えたスラグホーン教授は、トムと呼んだ青年の肩をポンポンと叩いた。
「明後日、スラグクラブを開こうと思っているんだが…来てくれるかね?」
なんて良いタイミングなのだろう。
「ええ、勿論です。是非お伺い致します」 「そうかそうか、ありがとう!!」
トムは、朗らかな笑い声を残して去って行くスラグホーンを見つめていた。
そして偶然すれ違った生徒が、言った言葉。
「ね、またあの子泣いているらしいわよ」 「今度は何だったの?」 「男子に教科書を隠されたんだって」 「懲りないわね…。あの子もすぐ泣く癖を直すべきだと思うわ…」
ああ、恰好の獲物が居たじゃないか。
トムの口元が、狂気に歪んだ。
その狂気に気付かない女子生徒達は、トムの妖艶な笑みに黄色い声を上げる。 パタパタと走り去る女子生徒の足音を聞きながら、トムは中庭へと向かった。
ふわりと、柔らかい黒髪が穏やかな風になびいた。
左手の中指に着けている指輪は、太陽光を受けて妖しく光っていた。
さぁ、ショータイムの始まりだ。
喜劇の終わらせ方 (役者は揃った)
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