「……おい、さっさと織田先輩から離れろよ」
「そっちこそはよ離れてくれん?いい加減ウザいんで」
「てめ…っ」
長期休暇を利用して財前と謙也は神奈川へとやって来ていた。
『ワテらの代わりに市ちゃんがちゃんとご飯食べとるか見てきてくれへん?』
『もしあいつが倒れてたら…分かっとるやろな?』
とはラブルス二人の言葉。
元々行く気だった財前に、財前一人だと心配だからと無理矢理ラブルス(ライブがあるので来れない)によって行くことになった謙也。
財前の毒舌に内心泣きそうになりながらも着いた先で真っ先に起きた市争奪戦。
本気で泣きたくなった謙也はとりあえず隣でにこやかな笑みを浮かべている幸村に恐る恐る話し掛けた。
「な、なあ幸村」
「ん?どうかしたかい、忍足君」
「あ、いや…忍足やと侑士と被るから名前で構わんよ」
「そう?なら謙也君で」
「あの二人、何であんなにいがみ合っとるん?」
「ふふっそれはほら…ね?」
隣で笑う幸村に何処か恐怖を覚えた。
察しろよ、といったオーラを出している幸村にいがみ合ってる2年ズ。
誰でも良いから助けて欲しい、なんて謙也は思った。
「つーか今日は俺が織田先輩と約束してたんだよ!」
「は?何言ってんのや。今日しかおれへん俺らに市先輩のこと譲りや」
「あーっ織田先輩のこと名前で…!」
「何や、先輩も了承済みやし」
ハッと鼻で笑い財前は馬鹿にしたような口調で続けた。
「ちゅーかまだ名前で呼んでへんとか…ダサ」
「はあ?!お前に言われたくねえよ」
険悪ムードの二人に挟まれている市はそんな様子を見て不思議そうな顔をして言った。
「なら、此処にいる人達で何処かに行きましょう………?」
「え、」
「だって、出掛けたかったんでしょう…?」
現状を理解していない市の言葉に2年ズが顔を見合わせた。
「……そう、スね!じゃあ早く行きましょうよ織田先輩!」
「あ、だったら市先輩どっかで甘いモン食べません?奢るんで」
そんな風に声を掛ける二人を面白そうに見つめる幸村。
「本当、二人とも分かりやすいなあ。ねえ謙也君、」
「お、おおおおん!?何や?」
「そんなに緊張しなくても、真田じゃないんだから何もしないよ」
「え、あ…おう?」
何だか物騒な言葉を聞いた気もしたが、余計なことは言わない方が良いと察した謙也はとりあえず頷いた。
「財前君、だっけ?彼も赤也よりは分かりにくいけど分かりやすいね」
「まあ、光があんなに懐いとるのは初めて見たんやけどな」
「…君も大概鈍感だよね」
「どういう意味やねん!」
「ふふっさあね。あ、ほら移動するみたいだよ」
謙也の言葉をさらりと流して幸村はスタスタと歩いて行く。
「幸村さん、ごめんなさい……」
「ううん、織田さんが謝ることじゃないよ。うちの赤也が無理言って今日にしてもらったんだし」
「いっ!?」
ギリギリと市から見えないように切原の足を踏む幸村。
「赤也…?どうかしたの……」
「あ、はは…何でもないっス」
下手なことを言えない切原は笑ってごまかした。
「うわダサっ写メってもええですか?」
「うん、構わないよ。後で俺にも回してね」
「幸村部長!?」
楽しそうな顔で了承する幸村に切原は声を上げた。
「何かな、赤也」
「何で勝手に許可してんスか…!」
「え、だって面白そうだったから。…それより良いの?謙也君、織田さんと話してるけど」
「は?」
「あん人、目を離すとすぐこれや」
にこやかに幸村が指差しながら告げると切原と財前はすぐさま後ろを振り向いた。
「謙也さん…疲れてる……?」
「大丈夫やで、少し色に当てられただけやから」
「そう…?でも、謙也さんは幽霊も見えているから辛いでしょう……?」
「俺かて対策しとらん訳じゃないから大丈夫や!」
仲良さそうに話す二人を見て、切原と財前はとりあえず謙也を市から引き離した。
「俺の市先輩に手を出そうとするなんて100000年早いっスわ、謙也さん」
「財前のってとこは気に食わねーけど…俺もそう思ってるんで」
「え、ちょ…待ちぃや……!」
二人に追い詰められた謙也がダッと走り出す。
「浪速のスピードスター、ナメるんやないで…っ!」
「……財前、此処は一旦手を組んであの人捕まえようぜ」
「いつもなら嫌やけどしゃーないわ、…ええで」
追い掛け始めた二人。
残された市は不思議そうな顔をして幸村に聞いた。
「3人とも、どうかしたの……?」
「鬼ごっこじゃないかな?」
「本当…?3人共仲良くなれたのね……」
相変わらずの天然な返事に幸村は微笑ましい気持ちになった。
「(謙也君を囮にして正解だね、織田さんを独り占め出来るし)ふふっ織田さん、このまま待つのも何だしそこの喫茶店でお茶して待とうよ」
「ええ…3人の邪魔をしてもいけないものね……」
市の手を取り幸村が喫茶店の中へと入る。
日が当たる席に案内されて座り、紅茶を頼んで走り回っている3人の様子を眺めた。
「2人掛かりでもなかなか謙也君のことを捕まえられないみたいだね」
「謙也さん、速いのね…」
「スピードスターって名乗ってるくらいだから。何でもリズム狂の不動峰の神尾君より速いらしいし」
「市はあんなに速く動けないから羨ましいわ……」
「なら真田の背中に乗って〈雷〉をしてもらうと良いよ」
ほのぼのとした空気が二人の間に流れる。
外では謙也が2年組に捕まり、ボコボコにされていた。
「二人とも仲良く謙也君と遊んでるね」
「うん…さっきは喧嘩してたみたいだから良かったわ……」
確信犯の幸村に天然が入っている市が気付く筈もなく、やんわり微笑み同意する。
「あ、二人ともこっちに気付いたみたいだね」
「ええ……」
謙也を放置して2年生二人が喫茶店へと入って来る。
「二人とも狡いっスよ!あ、俺はコーラ一つ」
「ホンマ幸村さん、ちゃっかり市先輩独占してはりますし。俺は珈琲で」
注文をして席に着いた二人に市は言った。
「…? 三人で仲良く遊んでたみたいだったから…幸村さんと中に入ってたの……ごめんなさい…」
「市先輩が謝ることじゃないっスわ。悪いのは謙也さんだけですから」
「そうっスよ、悪いのは全部先輩達のせ」
「赤也?」
「……謙也さんのせいっスから!」
「そう、かしら……」
2年生ズは不思議そうに首を傾げる市に力強く同意した。
「に、してもこれだけで随分時間使っちゃったね。財前君は何処か回りたいところはあるの?」
「そうですね…でしたら海に行きたいんでお願いします」
財前に話を振った幸村。
「うん、良いよ。ならそこで餓死してる謙也君を起こさないとね」
「幸村部長、餓死はしてないと思うっスよ」
ツッコミを入れた切原を黙殺して幸村は立ち上がった。
「織田さんの分は俺が払っとくよ」
「でも、悪いわ……」
「此処は俺を立てると思って。ね?」
押し切り、幸村はお金を払った。
「さあ、行こうか!」


―――
風葉様リクエスト『光と赤也が緋色主を取り合い(保護者組見守るもしくは漁夫の利)』でした!
保護者組の指定は特になかったので幸村様と謙也君に。
謙也君にはそのうち良い事があると思います。
第二章で良いことがあると良いね、謙也君!
風葉様のみお持ち帰り可能です。


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