「しっかりしないか、お前は!」
「えーだって眠いCー…」
「……ええいっ話を聞かずに眠るなど悪だぞ!」
ベシッと痛そうな音が響く。
「何するんだCー!長政の起こし方は痛いから嫌だCー!」
「慈郎が起きないのが悪いだろう、私は先程から起こしていた。…今日は立海との練習試合だろう?」
「ええっ、早く言って欲しいCー!」
急にテンションが上がった慈郎に長政は自然と溜息が出たのだった。











浅井長政。
芥川長政の前世の名前である。
妻であるお市とは生まれ変わってから一度も会えていない。
「長政先輩、どうかしましたか?」
「…ああ、少し昔のことを思い返していたんだ」
日吉に話し掛けられて、長政はそう返事を返した。
「そうですか、そういえば長政先輩は初めてですよね立海との練習試合に参加するのは」
「ああ、テニス部に入ったのが今年からだったしな。…テニス自体はしていたのだが、部活に参加する時間がなかったのだ」
双子の兄弟である慈郎に釣られ、テニスをしてはいたが一番重要だったのはお市を見つけること。
その為に長政は時間をなるべくお市を探す為に使っていたのだ。
「(…もう、見つからぬかもしれないな)」
どれだけ探そうと見つけることが出来なかったお市。
半ば諦めてきている気持ちもあり、以前から誘われていたテニス部へと入部したのだった。
「……まさー、長政?」
「ん?どうかしたのか、慈郎」
「何か元気なさそうだCー」
先程まで他の席に移動して騒いでいた慈郎が隣に戻って来て、長政の顔を覗き込んだ。
「長政が元気ないと俺も元気出なEー」
心配そうな顔をする慈郎に長政は申し訳ない気持ちになった。
慈郎は人の心に敏感だ。
「…済まない、慈郎。少し考え事をしていたのだ」
「ううん、長政が元気になるなら構わないCー。家族なんだからいつでも頼ってよ」
にこり、と笑い慈郎は寝る態勢になった。
「あっ、そういや長政。新しく立海に女子マネが入ったらしいぜ?」
向日がそう言って近寄って来た。
「女子マネを取るなんて珍しいなあ」
「忍足、手を出すなよ?」
「足が綺麗やったら出すかもしれんで」
忍足と宍戸が話しているのを聞きながら、長政はバスの外に視線を向けた。
















「やあ跡部。今日はよろしく頼むよ」
「こっちこそ頼むぜ、幸村」
部長同志で挨拶を終え、試合前の練習に入る。
「そうだ、立海ってマネージャー入ったんだよな?どんなやつなんだよ」
「入ったというより臨時といったところだな」
向日が柳に尋ねているのを視線の端に入れながら全員がアップをする。
「おい向日。そんな話は後でも出来るだろう、早くアップに入りやがれ」
跡部がそう告げると渋々向日は練習に入った。
「…あーあーっ早く試合始まらないっスかね」
「赤也、少し落ち着かんか」
「だって織田先輩がマネやってくれてるんスよ?カッコイイとこ見せたいじゃないっスか」
そんな声が聞こえ、長政は少しだけ話を聞きたかったが跡部が目を光らせていた為諦めた。
「(休憩になったら多分会えるだろう)」
そう考えて、慈郎の乱打の相手をする。
「…あれ、ジロ君と打ってるやつ誰?見たことねえけど」
「あの人は芥川長政先輩、芥川先輩の双子の弟さんなんですよ」
「へえ、今までは部活に入ってなかったのか?」
「ああ、確か探し物があったとかで部活には入ってなかったんだよな」
立海と氷帝のD1がそう話しながらアップをする。
「探し物、ね…何やら面白そうじゃの」
「仁王君何かまた企んでいませんか?」
「…ピヨッ」
「仁王君!」
そんな声も聞こえる。
「……集合!」
そこに幸村からの合図が掛かり、全員が一旦真ん中のコートへと集まった。
「これから立海と氷帝の練習試合を始める。試合形式は1ゲームマッチ、デュースは無しで先に6セット取れば勝ち。あと、今日臨時マネージャーとして参加してくれている、織田さん。挨拶お願いするよ」
「はい…織田市です……今日は皆さんのサポートに徹するので、よろしくお願いします……」
その声に、長政は時が止まったように感じた。
前世で唯一自分が愛した女性の姿がそこにはあった。
ただ、前世のような感情はなくなってしまっていたのに愕然とすると同時に、市の瞳は長政を捉えてもとくになし反応することがなかったから、何となく察していた。
既に、自分達の関係性はなくなっているのだと。
「(……だとしても、私は伝えなくてはならない)」
「長政、どうしたCー」
ぐい、と服の端を引っ張って聞いてくる慈郎に僅かな笑みを浮かべて言った。
「私は漸く、探していた人を見つけることが出来たのだ」














暫くは試合の関係で練習を抜けることが出来なかった。
「…少し、良いか?」
少しだけ空いた時間を利用して長政は市に話し掛けた。
「市に何か用……?」
「個人的に、言いたいことがあったからな。…聞き流してくれて構わない」
「………うん」
「市、私はお前と共にいれて嬉しかった。例え兄者に私の首を取るように命令をされていたからと私に嫁いだのだとしても、愛していた。兄者と敵対した時、お前を庇って私が死んだのは市のせいではない。……これだけは絶対に伝えたかった」
「……なが、政様?」
少しだけ驚いた顔で言った市に頷くと市は涙を少しだけ流した。
「なっ…メソメソするな市!」
「うん…ごめんなさい…」
「…ああもう、私は泣かせてばかりだな」
涙を拭い、長政は悲しげな顔で言った。
「市、今度会うときはちゃんと笑っていてほしい」
そう言い残して長政はコートへと戻って行った。
少しだけ思い出した市も、最早自分に恋愛感情を抱いていないのに気づいていた。
これから先、お互い新たな恋をするのだろう。
どんな相手であろうと、思うのはただ一つ。
「願わくば、今度こそ市が幸せに笑えるように」
長政の言葉は静かに風に乗って飛んで行った。



―――
リクエスト内容『長政が庭球世界に成り代わりもしくは誰かの兄弟で緋色主と出会う』でした。
一応庭球メインなので長政様には身を引いてもらいました。
ちなみに長政様はジローの双子の弟。
兄が駄目なら弟は真面目だよね←
意味不明ですいません…っ。
ようは市ちゃんの心残りについて諭すみたいなお話です。
このあと、長政様は市ちゃんに彼氏が出来たらちゃんとした人か確かめたりとお兄さん風な感じになります。
それではリクエストありがとうございました!


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