「仁王さん、今日はよろしくね……」
「プリッ」
雨続きだった日々。
調度晴れた日に市と仁王は約束をしていた。
最近は切原や幸村、ジャッカルなどの面々が話し掛けていた為二人で話すなど到底無理になっていた。
それに耐え切れなくなった仁王は緻密に計画を立てて上手いこと休日に二人で会うことに成功した。
「(詐欺師の異名は伊達じゃないぜよ)」
なんて思いつつ、仁王は隣を歩く市を見下ろした。
「(俺もあんま食わん方やけど……食っとるんか、こいつ)」
そんなことを思いながら口を開いた。
「すまんのう、俺の用事に付き合わせて」
「ううん…市も染物や万華鏡には興味があったから……」
少し遠いところで開かれる伝統工芸品の展覧会のパンフレットを開きながら口元を緩ませる市を見て、誘って正解だったと仁王は思った。
「でも良かったの…?市以外の人と行きたかったんじゃ……」
「男同士で行ったらまずいじゃろ、色々と」
レギュラーのことを言っていると気づいた仁王はしっかりと否定した。
相変わらずの天然ぶりに脱力しつつも仁王は話を続ける。
「そういえばお前さんのハンカチなんかは染物が多いの」
「ええ、大抵は買い付けに行っているわ……」
「買い付け?ここらに買えるとこがあるんか」
「ううん…京都よ……」
「……遠いぜよ」
よく大阪へと遊びに行くついでである為さほど気にしてはいない市は首を傾げた。
そもそも大阪へと行くときだって黒い手を上手く使って移動している為時間もお金も掛からないのである。
詳しくは割愛するけれども、そのおかげで大阪へとよく行けるのだ。
「織田、あと少しで着くナリよ」
気づけば展覧会のすぐ近くまで来ているのに気づいた仁王が市に声を掛け、中へと入った。
入るとお香を炊いているのか心が安らぐ匂いが漂っている。
「ええ匂いやの」
「そうね……市は好きだわ…」
入って早々感嘆の声を上げた、二人。
まずは染物からである。
「見事な金糸雀色やのう」
「ええ…均等に染まっていて、綺麗ね……」
「こっちは舛花色…模様もメリハリが付いていていいぜよ」
一つ一つ見ては感想を言い合う二人。
「仁王さん、詳しいのね………」
「ん? ああ、色の名前ちゅーんは面白いけえの」
「そう…」
「そう言う織田こそよく知ってるナリ」
「市は見慣れていたから」
「珍しく断定形やの」
くつり、と仁王は笑いながら言った。
「……お、万華鏡のコーナーぜよ」
「ふふ、綺麗…」
手に取って覗けるようになっている為それぞれ近くにあったものを手に取る。
「不思議よね…一度出来た形は二度と出来ないのだから………」
「そこが万華鏡のええところ…じゃろ?」
「ええ…魅力よね」
仁王の言葉に頷き、市は万華鏡を置いた。
「記念に万華鏡、買ってもいいかしら……?」
「構わんナリ、」
「ありがとう…」
周りの柄が色違いのものを二つ取り、仁王はお金を払うと市に手渡した。
「仁王さん、これ……」
「ん、自分で選びたかったんか?」
「そうじゃなくて、お金………」
「今日は付きおうてもらったからの、お礼ちゅうことで受けとって欲しいぜよ」
「ありがとう、仁王さん……」
「プピーナ」
市の髪を少し乱暴に撫で、仁王は口元だけで笑った。
「仁王さん、良かったらそこの甘味処でお茶しましょう……?」
「ピヨッ」
市の提案に、仁王は市の手を引いて甘味処へと足を向けた。
「織田は何がええんか?」
「みたらし団子…」
「俺は胡麻にしようかのう」
楽しみだと頬を緩ませる市に仁王は笑みを浮かべながらプリ、と呟いた。
「仁王さん、交換して食べましょう……?」
「ん、よかよ」
「お友達と半分こ、初めて……」
「俺が織田の初めてを貰ったんか、なら責任取っちゃるきに」
「? うん…」
よく分からないものの頷いた市に仁王は頭を撫でた。
「お前さんはもうちょっと考えた方がええの」
「仁王さんは信頼出来る人、だから…」
「詐欺師に信頼とはやっぱり変わっとるの、市」
心底可笑しい、といった様子で仁王は笑った。
「そうかしら…仁王さんは信頼出来る、言い切れることよ……?」
「……変わっとるよ、やから俺も気に入ったんやけどな」
市に裏のない笑顔を見せながらそう、仁王は言ったのだった。
「さ、早く頼みんしゃい」
「うん……」


―――
月菜様リクエスト『緋色主で仁王とデート』でした。
仁王から買って貰った万華鏡は市の宝物になります←
このあとはのんびりお茶とお団子を食べたあと、帰宅途中でレギュラー陣に見つかって尋問されます(笑)
月菜様のみお持ち帰り可能です。


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