その手を差し出してくれる?
 

「落ち着いた……?」
『すんません、みっともないとこ見せて…』
「ううん、市が促したんだもの……」
あれから30分。
切原の目元は赤いものの、泣き止んでいた。
『正直、俺は恥ずかしいんスけど…』
「そうかしら…」
『そうっスよ…』
「なら、市が泣きたい時に今みたいに切原さんが肩を貸してくれたら、それでおあいこ…ね?」
『っ、はいっス!』
まだ何か言いたげな切原をスルーして市は本題を切り出す。
「さっき、切原さんから聞いた話から分かった事があるわ……」
『何スか?』
「一つ、切原さんの体の中にいるのは女の子……」
『あ、そういえば…そっスね』
「二つ、切原さんの事をよく知っている…」
『でも、女の知り合いで俺の事をよく知ってるやつなんていないっスよ』
「それはもう一つの分かった事で説明がつくかもしれないわ……」
『どういう事っスか?』
「これは、市の力と、切原さんの話からの推測…〈彼女〉がこの世界の住人でない場合よ……」
『この世界の住人でない、場合…?』
「ええ…確か〈彼女〉は切原さんの名前を出す前、〈テニプリ〉と言ったのよね…?」
『間違いないっスよ』
問われて切原は頷いた。
「切原さんが感じたように、〈原作〉。これは〈彼女〉がいた世界では本だった。そして〈中学〉これから推測されるのは……」
『中学生の時が本だった、っスね』
「そう、既に原作は終わってるようだから…〈テニプリ〉のテニはテニス。プリは何だか分からないけど……」
近くに落ちていた枝を拾って、地面へとカリカリと書きはじめる市。
「1番、強い人達が集まった大会ってある……?」
『確か…俺が中2の時の大会が俺達の世代で1番凄かったっス。青学、氷帝、四天王寺、比嘉、それから…俺達立海』
何処か懐かしむ顔で切原は言った。
その様子を見つめて、市は少しだけ口元を緩ませる。
そして、口元を引き締めて言った。
「………、それじゃあ行きましょう?」
『え、行くって…何処にっスか?』
「テニスコート」
『…え、』
「学校のじゃないわ……ストリートテニスコートよ…」
あるんでしょう?と首を傾げて問えば、戸惑い気味にまあ…と頷く切原。
「今日は打てないけど、見て行きましょう……?」
『っ…はい!』
笑顔で頷いた切原を連れて、市はその場から立ち去った。
「……ぴよ、」
ある意味1番見られてはいけない人物に見られた事に気付かずに。










『すんません、俺東京んとこしか来た事なくて……』
「ううん…どうせなら帰りにラケットとか、必要なものを買って帰りましょう……?」
『はいっ』
そんな事を言いながらやって来たのはストリートテニスコート。
どうやらダブルス専用らしいコートの方で試合を行っている。
『あっ、あれは…』
「知り合い…?」
『俺と同い年の青学のレギュラーっス』
「ダンクスマーッシュ!」
豪快に決めたそれがマッチポイントだった様で、相手コートにいた二人組が抜けた。
「橘妹!そろそろ俺帰るわ」
「だから杏だってば!…まったく。桃城君、今日はペア組んでくれてありがとね」
「こっちこそサンキュー!」
「ちっ、もう帰るのかよ桃城ー」
「また来いよな!」
「おー、分かってらあ」
スマッシュを決めた彼は帰るらしく、荷物を纏めている。
よく来ているらしく、周りとじゃれ合ってる。
「……、明日は早く来ましょう?」
『そっスね…でも俺は出来ないんじゃ』
「ふふ…大丈夫よ」
切原にスポーツショップへの道を聞こうと口を開こうとすれば、後ろから声が掛かる。
「ねえ!そこの貴女!」
「…市の事?」
「そうそう、貴女…テニスするの?」
先程の少女が笑顔で話し掛けてきた。
それに控え目に頷くと。
「そっか、じゃあもっと近くで見て行きなよ。此処の連中、結構上手いから」
ね?と、手を差し出して少女は言った。
「え、と…今日はこれからスポーツショップでラケットとか買いたくて……」
「え、そっかぁ…あ!なら私が案内するわよ!」
ウインクをしながら言えば、ちょっと待っててと自分の荷物を取りに行った。
「……切原さん、あの子は誰?」
『確か不動峰の橘っつー奴の妹だったと思うっス』
「橘、さん…?」
『はいっス、中学ん時に戦った事もあったんスけど……』
「……?」
罰が悪そうに視線を逸らす切原に首を傾げて市は聞こうとした。
「お待たせ!それじゃあ行きましょ」
ラケバを肩に掛けた少女が戻ってきた。



前へ 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -