ほら、繋がっているよ、ほら、
 

「ふう………」
段々とこの学校にも慣れてきた4月下旬。
市は一人で廊下を歩いていた。
今更ながら、彼女は高校二年生。その割には周りとは違い化粧っ気もなく、いつもと同じように弁当を片手に裏庭へと向かっているところだった。
たまには気分を変えて、と考えてこの場所に来た市は首を傾げる事になった。
―――誰かが泣いているのだ。
『……ック、ふぇっ……』
必死に声を押し殺しながら、彼は確かに泣いていた。
「…どうしたの?」
それを見て市は近寄りながら尋ねた。
『っ!あ、アンタ……』
驚いたような顔をした彼の目の前に立ち、今だに流れる涙を持っていたハンカチで拭った。
「大丈夫……?」
『大丈夫、スけど……』
何かを尋ねたそうに意味のない声を出す彼を前に、市はその場に腰掛けた。
「とりあえず、座って…」
『へ?あ、はい…』
言われた通りに座った彼に市は聞いた。
「市に、何か用……?」
『用って訳じゃ、ないっスけど……』
見えるんスか、俺の事。
そう問い掛けられて、頷く。
「市、昔から見えるし触れるわ…」
『そっ、スか』
何処か安堵した様子の彼の手を触り、じっと顔を見つめる。
『…何スか』
「名前、聞いてないからなんて呼べば良いか分からないの……」
『! す、スイマセン!俺、切原赤也って言います!』
「切原さん……市は織田市って言うの」
『織田先輩っスね!』
キラキラとした瞳でよろしくっス!と言い、にこにこと笑う。
「…切原さん、貴方は死んでる訳じゃないのよね……?」
『はい、そうっス…俺は死んでないし、生きてる』
自分の少し透けた手を悲しげに見つめて、切原は言い聞かせるように呟いた。
『…それに、俺の体は今も動いてるっス』
「動いて、る…?それって」
キーンコーンカーンコーン...
チャイムがなり、言葉を遮られる。
「あ…チャイムが」
『行ってください、織田先輩』
「でも、切原さんが……」
『俺は平気っスよ!』
笑顔で言い切る切原の手をそっと握る。
『、織田せんぱ……』
「一緒に行きましょう?話なら授業を聞きながらでも出来るから……」
『! っス』
手を握ったまま走り出す市に頷き、そのまま着いて行った。










『授業中にどうやって話すっスか?』
「…私はノートの端を使って筆談するわ、切原さんは普通に喋って……ね」
『はい!』
教室に着き、食べなかった弁当を仕舞い教科書とノートを取り出す。
そこで、カタンと隣の席に誰かが座った。
「お、市。昼は食わなかったのか?」
「あまりお腹が空いてなかったから…」
その様子を見て驚きの声をあげる切原。
『えっ、ええぇぇぇえ!?ジャッカル先輩!?それに幸村ぶちょーも!』
いつの間にか席についていた幸村にも驚いている。
「(知り合い…なの?)」
『そっス!部活の先輩なんです』
「(そう……)」
初めて知ったと瞬きして、話を始めようとノートに字を書きはじめる。
「(今日はこれで授業が終わるから、それまでは自己紹介で良い…?)」
『構わないっスよ!』
窓の枠に腰掛けて切原は言った。
『それじゃあ俺からの質問で良いスか?』
「(うん……)」
『昔から見えたり触れたりするって言ってたっスけど、きっかけとかなかったんスか?』
「(ないわ、市…気付いた時からこんな感じよ)」
『それじゃあ、俺みたいなやつって沢山居るんスね……』
「(そうでもないの、切原さんみたいに幽体離脱する人は滅多にいないから……)」
『へ?』
「(体と魂は繋がっていて、自然には離れることがないわ………)」
ノートを取りながらの会話。
このまま話していたいが、隣のジャッカルが怪訝そうに見つめてきたから続きは授業後になった。



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