茶化して言ってみても、指先の震えが止まらない
 

四天宝寺に来て大分経った。
けれどどうやって全員を元に戻してなおかつ美里を引き離せばいいのか、目処が立っていなかった。
「ホンマどないしよか…」
謙也が溜息を吐きながら言う。
「やっぱりまずは美里を引き離さないと駄目ばい」
「でも、下手に接触すれば謙也さんはともかく、千歳さんが危ないわ…」
「…なるべく顔を合わせないように努力するとね」
千歳が申し訳なさそうにそう呟いた。
「とにかくや、ホンマに何とかせんと金ちゃんまで…」
「そういえばもうすぐ合同練習じゃなかね!?」
謙也の言葉に、千歳が慌てたようにいう。
「せや…」
はあ、と溜息を吐く謙也に千歳がにじり寄る。
「そげに悠長に構えてる暇はなかよ!」
「分かっとる。分かっとるけど…」
千歳の言葉に謙也は口ごもる。
謙也だって分かっているのだ、ただどうすればいいのか分からないだけで。
「打開策は博打みたいなモンやし…」
「織田さんが祓う、ってやつのことばい?」
「せやかて、根っこをどうにかせんかったら意味ないんや」
「だから博打みたいなものってこととね?」
「ごめんなさい…これも市のせい……」
市がどんよりとした面持ちで謝った。
「いやそんなことないて!」
「織田さんが来なかったら解決出来るかも怪しかったばい」
慌てたように二人がそう言った。
「ちゅーか、何でこないなことが起きまくっとるんかな」
「普通だったら起きる筈なかよ」
「立海も切原が大変やったっちゅーし…何なんやろうな」
「あの時の事は…何だか懐かしい様な、そうでない様な何かが関わっていた気がするの……」
「織田さん?」
「…、ごめんなさい。上手く言葉に出来ないわ…」
暫く考え込む様に視線を下に向けていた市は謙也と千歳へと視線を戻した。
「…ともかく、アイツを何とかせないかんな」
「確か織田さんがテニス部に入るって話だったとね?」
「ええ…遠くから見ているより、この方が得策な気がして…」
「近くで様子を見た方がって事か…」
ううん、と悩むように謙也が唸ると市は大丈夫だと言わん限りに頷く。
「大丈夫よ…私なら問題ないと思うから…」
「せやけど、なあ…」
「まあまあ謙也、そんな気にせんといても大丈夫だと思うばい」
それに織田が居ないなら俺もテニス部に近寄れんとよ、と千歳が付け足すと暫く唸りながら考えていた謙也が溜息を吐いた。
「…しゃーない、不本意極まりないんやけど織田さん。お願い出来るか?」
「任せて…」
「にしても千歳、お前さっきまで反対してへんかったか?」
「あー、確かにさっきは反対してたばい。でも他に方法があるとも思えなかったとよ。織田さんにはホンに申し訳ないけど…すまんち、頼りっぱなしになりそうたい」
千歳はそう言って困ったような顔をして謝る。
「ううん…市も財前さんに一氏さん、それに小春ちゃんの事心配だったから…」
そう言って僅かに笑みを浮かべる市に本当に仲良いんやなと謙也は思う。
「白石さんと小石川さんも、このままじゃ大変だし…」
と付け足された言葉にそうだなと頷きながらついでなんか…と思うが、そもそもあまり関わりがない相手すら助けようとしてくれているのだからと自分の中で納得させる。





「なあ白石、ちょっとええか?」
「…ん?なんや、謙也」
おざなりながらも答えてくれた事にホッとしつつ、謙也は告げる。
「あんなあ、もう一人マネ増やす気ないか?」
「……藪から棒にどうしたん、お前」
「あ、いや…美里だけや大変やろ?レギュラーだけやなく他の部員のマネもするんは。せやから、もう一人増やして負担減らしてやりたいんやけど…」
嘘を吐くのが苦手ながらもそう言い切ると、白石は考え込んだ後に「そうやな」と頷いた。
「確かに、愛司に負担かけさせまくっとるっちゅーのもなあ…誰か候補おるん?」
「おん、こないだ引っ越してきたやつなんやけどな。浅井っちゅう女子や。前おった学校でマネージャーやっとったらしいんやけどな、ドリンクの作り方とか纏めた紙くれてん。それがごっつう分かり易いんや」
「へえ、そないなモン貰っとったんか…ま、とりあえず様子見っちゅー感じで入ってもらおか」
「せやったら明日から来てもらえるよう声掛けとくで」
「せやな、頼んだで。…あ、愛司が来たから俺は行くわ」
「…おう」
白石が美里の元に向かうのを暗い面持ちで眺め、謙也はコートに入った。
「(…ホンマ、早よ目ェ覚ませや白石)」
「謙也はん、ラリーしましょか」
「せや、な」
銀に声を掛けられ、頷くと気持ちを入れ替えて謙也はラリーを始めた。
「(待っとれや、絶対皆元に戻すで…!)」



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