まっすぐな瞳が眩しい
 

千歳と話して数日。
市は溜息を吐いていた。
「手掛かりなし、ね……」
テニスコートに近寄ることも出来ず、市が美里をちゃんと見たのはあの初日の昼休みのときだけだ。
それ以外のときでは全くと言っていいほど見掛けることすらなかったのだ。
「早く何とかしないと……」
そう呟く市だったが、どうやって接触すればいいのか。
それが分からなかった。
「あれ、織田さんばい。こげなとこで何しよっと?」
不思議そうな顔で千歳が話し掛けてきた。
「千歳さん…」
コートを眺めていた市は控えめに口を開いた。
「……どうしたら、他の人達の黒い靄が払えるかと思って…」
「黒い靄…織田さんにはそげな風に見えるとね?」
「ええ…」
千歳の言葉に頷く市を無言で眺め、千歳は言い難そうに言った。
「それだったら、簡単ばい。テニス部に入ればよかとね」
その千歳の言葉に市は首を傾げた。
「…テニス部に?」
「そうばい。そげんことになれば必ず近くに行けるたい。…あんまりオススメは出来ないことではあるけど…」
市は少しだけ考える様にコートの方を見た。
「それも一つの手段ね……」
「…織田さん、今の話を聞いとったばい?」
「ええ……」
頷く市に千歳は苦笑した。
「今のは失言だったとね。織田さんにはあんまり今のテニス部には近寄ってもらいたくなかよ」
釘を刺すように千歳が言う。
「どうして…?」
「どうしてって…当たり前っちゃ。織田さんこつ、今まで仲のよかった光や小春、ユウジと仲良く出来ないのは辛い筈ばい。それこそ小春とユウジから無視なんてされたら…」
僅かながら千歳は市と会い、話していたときのことから少しだけ分かっていることがある。
市が小春と一氏に若干依存気味なのは何となく分かっていた。
何が理由でなどは全く知らないのだが、市と二人の間に何かあったことだけは分かる。
そんな市が依存相手である二人に冷たくされたらどうなってしまうのか。
それを懸念していた。
「大丈夫よ…市、慣れてるから……」
そう言う市に千歳は眉根を寄せる。
「織田さん、あんまり俺んこつナメるんじゃなかよ。織田さんは只でさえボロボロばい。俺は誰かに犠牲になってもらって自分だけが幸せになるのは許せん質ばい。…謙也君もきっとそうたい」
「…そうやで、織田」
いつからいたのか謙也が二人の後ろから声を掛ける。
「謙也君、いつからそこにおったとね!」
「最初っからや。休憩になったからこっちに来てみたら二人が話しとって出づらかったから黙っとっただけや」
千歳の言葉にそう答え、謙也は市の前に立つ。
「織田、俺はな。織田に全部助けてもらおうなんて考えとらんのや。そうしたら、何やシコリが残ったままになる気ぃする。きっと俺達は俺達であいつらの目を覚まさせる為に何やせなあかんねん」
そう言って市のことを見る謙也に、市は口を開いた。
「…貴方達は、強いのね……」
「そんなことはなかよ。ばってん、強か男だったらこうして部活はサボらんばい」
「俺や銀はともかく、千歳は美里のあの黒いやつを払えんからなあ…」
謙也が困ったように頬を掻く。
「市が払うわ…」
「そういえば、織田は払えるんやったな」
「そうだったと?」
初耳だと言わんばかりに目を瞬かせる千歳。
そんな千歳にそういえば知らなかったなと謙也が呟いた。
「まあ、無理に来る必要もないで?ただ…練習試合や中学のテニス部との交流のときには来てもろうからな?」
「分かっとおばい」
謙也が釘を刺すように言い、千歳は曖昧に頷いた。
「交流…?」
「ああ、織田は知らんかったな。うちの高校、公立なんやけど中学も公立で同じ四天宝寺言うんがあるんや」
「俺らもそこの出身で、大体の生徒が持ち上がりみたいな感じで高校に入るばい」
「それで、中学の方の監督やっとるオサムちゃんが試合して交流会開こ言うて中学のテニス部と交流してんねん」
「そうなの…」
二人の説明に市が頷く。
「そうしたら金ちゃんも来るばい。…あいつに悪影響受けなきゃよかばい」
「せやなあ…。金ちゃんは純粋やしすぐに懐いてしまいそうやし…」
うーん、と頭を悩ませる二人。
悩み事が増えてしまった。



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -