こうかいの、め
 

「浅井は図書室かどっかで時間潰しとき。俺の部活が終わるまで待っとってや」
そう告げて謙也は部活へと行った。
「…………」
どうしようかと市は考え込み、裏山へと足を向けることにした。
「───泣かない心で終わらせましょう
骸よ冷たい祈りに変われ
緋色の花びら染め上げましょう
ほら虚無が飛来する
静かに舞い降りる──」
口ずさみながら市は歩く。
ゆっくりとけれど確実に歩みを進めて行く。
やがて市は足を止めた。
見知った人がそこにはいた。
「…………千歳、さん?」
「……その声、織田さんやなかと?」
猫に囲まれた千歳は市を見て驚いたように瞬きをした。
「織田さんは何で此処におるとね。それにその髪…」
金色に染まっている市の髪を見て少しだけ残念そうに呟いた。
千歳は存外、市の髪の色を鴉の濡れ羽色を気に入っていたのだ。
「ちょっといろいろあったから……」
どう答えたものかと悩んだ末に出した答えがそれだった。
「……そういうことにしとくばい」
特に深く追求するでもなく千歳はそう言って何も聞かなかった。
「…そういえば白石達には会ったと?」
「ううん、まだよ………」
「そか。…織田さんはいつまで此処にいるつもりでいるばい?」
「暫くは謙也さんのとこにいるつもりよ…」
「謙也君のところに?」
「ええ…謙也さんのお家は今家族が出てるらしくて…。ちゃんと連絡して許可を貰っているから心配いらないわ……」
「……そげなことを言ってる訳じゃなかよ」
呆れたように市を見て、千歳は猫を抱き上げた。
「織田さんは女の子ばい、いくら謙也君でも一緒にしかも二人で暮らしてたら危険とよ」
「大丈夫………」
千歳の心配そうな言葉に市はしっかり答えた。
いざとなれば黒い手達が守ってくれると知っていたので市は普通にしているのだ。
「まあ、織田さんがそんなに自信満々に言うなら平気だと思う、けど…。何かあったら俺に言いなっせ」
千歳の言葉に市は頷いた。
「……千歳さん」
「ん?何たい、織田さん」
「千歳さんはどうして此処にいるの…?」
「………織田さんは何でだと思う?」
「…美里愛司」
「………」
「謙也さんが言っていたこと通りなら千歳さんは、彼女がいるから………」
「織田さん」
千歳の声に市は口を噤んだ。
困ったような顔をして千歳は笑う。
「織田さん、最初から知っていたとね?」
「………」
「だったら、この話はしないで欲しいばい。俺はまだあの状態の白石達と向き合えないから、時間が欲しいたい」
それは確かな拒絶だった。
「………っと、そろそろ部活が終わる頃ばい。俺は帰るっちゃよ」
鐘の音に千歳が口を開いた。
「千歳さん、」
「…………織田さんは、謙也君は、なしてあんな風になった白石達に近づこう思えたばい?」
「………………」
「スマンち、変なことを聞いて。あまり遅くならないうちに帰らなきゃ駄目たい、織田さん」
何を言うでもなく千歳は足早に去って行った。



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