必要としていたのは僕の方
 

書類を提出して二日後。
市は再び四天宝寺高校の前に立っていた。
「織田、その格好…」
「目立つのは嫌だから……」
「いや、充分目立つと思うんやけど」
長い髪を金髪に染め、先が緩くウェーブの掛かっている。
化粧は少し厚めで何処にでもいる女子高生のようだ。
「にしても、随分変わるもんやなあ…」
「そうかしら……」
首を傾げる市に謙也は苦笑を漏らした。
「教室は何処になるのか分からないの…あと、苗字も借りようと思って………」
「借りる?」
「ええ…市の名前だとテニス部の人がクラスにいたら、見た目が違うのに可笑しいってなるわ…」
「……あ、それもそうやな」
「うん…だから、苗字を借りたの……」
「へえ…それでどんな苗字なんや?」










「浅井市です」
ぺこり、と頭を下げ自己紹介をした。
クラスは2-C、謙也と一緒のクラスだ。
少し離れた席になったものの、話せないことはない席。
周りの生徒が市を見てざわめく。
見た目が元々整っているのだ、化粧が良く映えていて更に目を集めている。
「金髪の誼みで仲良うしてやりいや、忍足」
「えっ、俺なんか!?」
担任から指名され、謙也が大声で驚くとドッと笑い声が沸く。
「よろしく、忍足君!」
「…お、おん(キャラ、変わり過ぎやろ…!)」
にっこりと笑う市に謙也は冷や汗を流した。
「ついでやから移動して隣になったれなったれ。…田室ーお前席変われー」
「酷ない、センセー!?」
謙也の隣に座っていた男子生徒がツッコミを入れながら席を代わった。
「浅井、改めてよろしゅうな」
「うん、よろしく」
ハキハキ喋る市を見て謙也は思った。
女って怖い。
休み時間になれば勿論質問攻め。
昼休みの辺りになってくると少し周りが静かになった。
「けっんやくーん!一緒にお昼食べよー!」
ニコニコと教室に乗り込んでくる女子。
それを見て、謙也は嫌そうに顔を顰た。
「い、いや…今日は放送の仕事あるねん」
「ええー…いいじゃん!一回くらいサボったって!」
抱き着き、上目遣いをして謙也を無理矢理誘う女子。
「せやから無理やって、………美里」
呼ぶのに抵抗があるのか大分間を置いてから謙也は名前を呼んだ。
「もう!謙也君ってば!名前で呼んでって言ったじゃない!」
可愛らしく怒る女子──美里に謙也はどう逃げるか考えた。
「悪いけど、今日は私と放送があるから二人で食べることになってるんだ。だからまた今度誘ってあげて」
不意に凛とした声がして、謙也は助かったとばかりに息を吐いた。
教室のドアの前にペットボトルを二つ抱えた市が立っていた。
「はい、忍足君。頼まれてたお茶」
「おおきに。購買の場所、分かったんか?」
「下見に来たときにちゃんと見といたからね!」
ブイサインをする市を美里はワナワナと体を震わせて見つめた。
「…け、謙也君。この子誰?」
「え、あ…今日転入してきたんやけど」
「はじめまして、浅井市です」
にこやかに笑いながら自己紹介する市。
その間そそくさと自分に纏わり付く澱んだ黒を払って謙也は市に声を掛けた。
「まずいわ、お……浅井!早うせんと間に合わんっちゅー話や!」
腕をパッと掴み謙也は走り出した。
「謙也君!?」
声を上げる美里を無視して走り去った。










「ふう…助かったわ、浅井!」
「ううん…謙也さん、困ってたみたいだから……」
放送室に入り、鍵を閉めると謙也は近くの椅子に腰掛けた。
市も空いている椅子に座った。
「それじゃあとにかく放送始めんで!」
「ええ…」
元気よく謙也が言った。
スピード感のある曲を流し、謙也と市はお弁当を食べる。
「……さて!今日の音楽はどうやった?どーも、忍足引いたり謙也やで!」
曲が終わり謙也はイキイキと放送を始めた。



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