勘違いと雪だるま
 

「いつきちゃんー来たCー!」
「本当に来たんだな、慈郎…ほらっラム肉のトマトカレー煮だべ!」
「わーい羊だCー!マジマジ嬉Cー!」
食券を受け取りながらいつきは煮込んでいた料理をお皿によそってトレーの上に乗せた。
サラダと自家製のライ麦パンを添えて出す。
「飲み物は何が良いだか?」
「んーとねー…オレンジジュース」
「オレンジだな。…慈郎、もう受け取ったんだから早くどかないと駄目だべ」
コップにオレンジジュースを注いでトレーに置くと今だに動こうとしない芥川にいつきは声を掛けた。
「Eー…俺、いつきちゃんと食べたいCー!」
「オラはまだ仕事中だべ。オラのお昼はお昼休みが終わってからだ」
「じゃあ待ってる」
近くの席に座ってトレーを置くとすぐに伏せって寝る体制になった芥川にいつきはぽかんとしたものの、すぐに面白そうに笑った。
「変わってるべ、慈郎は」










「最近ジローのやつが午後の授業に遅刻することが増えたらしい」
芥川を除くレギュラーと樺地を部室に集めた跡部はそう切り出した。
「ジローが遅刻するなんていつものことじゃん、跡部はほんっとジローに対して過保護だよなー」
向日の言葉を黙殺し、跡部は視線だけで樺地に頼んだ。
「……ウス、今までと今の…出席率、の比較……です」
簡潔に纏められた紙を樺地は全員に配った。
「マジかよ…ジローのやつ激ダサだぜ」
「くそくそっジローは何やってんだよ!」
「これは…比較するまでもなく酷なっとるなあ…」
「ジロー、やるねー。…でも跡部、跡部のことだから理由なんてとっくのとうに掴んでるんでしょ」
滝の言葉に跡部へと視線が集まる。
「当たり前だ、俺を誰だと思っていやがる。アーン?」
「誰って…跡部様やろ」
忍足が揶諭するように言うと跡部は鋭い眼差しを忍足へと向けた。
「茶化すんじゃねえ、忍足。…原因はすぐに分かった、ジローのやつ………」
跡部の言葉の先を待つように全員が黙る。
「…どうやら、学食にいたあの雌猫に恋したらしい」
その瞬間、部室に一瞬静けさが訪れ次の瞬間に叫び声が響いた。










「慈郎、いい加減授業出ないと単位取れねえべよ?」
「大丈夫ー…俺、ちゃんと単位は取れるくらい出てるCー……」
眠そうな芥川に溜息を吐きつついつきは既に芥川専用になりつつあるタオルケットを掛ける。
何だかんだで芥川といつきは仲良くなっていた。
お昼を一緒に食べると言い張って聞かない芥川にいつきが折れたのが原因だ。
「まあ、慈郎は可愛いし…懐いてくれるのも嬉しいだ。だからこそちょっと複雑だべ……」
何処か自分を母親のように慕ってくる慈郎。
自分は前世でも母になるような年頃まで生きた訳でもなかったので、精神的には確かに年齢が高いのだが母親のように慕われて複雑なのだ。
「でも、流石にこのまま授業サボらせるのはよくないべ…どうにかしたいけんど、梃でも動かねえ気だし…あああ、もう。オラは難しく考えるのは苦手だべ…」
芥川の寝転がるソファの近くにある椅子に座り、溜息を吐く。
どうしたらいいのか、色々考えながら気付いたら放課後になっていて未だにソファで眠っている芥川を慌てて起こしたのだった。
「俺、もう少し寝てたEー…」
「駄目だべ!もう部活の時間になるから早く行くだ!」
ゆさゆさと揺さ振り芥川を起こすといつきは無理矢理押して外に出そうとする。
「んー…もう少し寝たE…ぐう」
「あーっもう!」
ひょいと芥川をお姫様だっこしていつきは部室に連れて行くことにした。
ついでに部室に着くまでキンキンに冷えた雪をこっそり芥川に纏わり付かせて起こそうとした。
……が全く起きる気配がなかったのでとりあえず部室の前に芥川を降ろしていつきは立ち去った。



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