居眠り羊と雪だるま
 

「……眠ってるべ」
いつきの目の前にはすやすやと寝ている金髪の少年がいた。
見たことがあるようなないようなその少年が寝ている場所は学食の隅だった。
「うーん…流石に放置はまずいだよ」
いくら昼休みが終わって人も少ないとはいえ、ちらほらと人の姿がある学食内にいたら一目に着く。
そうなると面倒なのでいつきは早急に手を打つことにした。
「よっ…とと、」
ひょいと俵担ぎをして少年を持ち上げたのだ。
軽々と少年を担ぎ、いつきは厨房の中に少年を入れた。
此処ならばさほど目立ちはしないだろう。
端にある休憩用のソファに少年を下ろし、タオルケットを掛けていつきは下拵えをし始めた。
「えーと…明日の日替わりのメニューは…っと」
分厚いファイルを開きながらいつきは食材を大きな冷蔵庫から出していく。
学食で食べるものは大勢いるのだ。
前日から下拵えをしていないととてもじゃないけど賄えない。
「香料はガラムマサラと…」
辛いものをメインにするメニューを見ながらいつきは食材を切り、味を付けて寝かせていく。
これを冷蔵庫に入れておいて朝からちゃんとした調理を始めるのだ。
「んー…Eー匂いだCー…」
ぎゅう、と抱きしめられる感覚。
「なっなっ何だべ!?」
「羊のお肉、食べた…Eー……ぐう」
金髪の髪がちらりと見え、先程の寝ていた少年だと気がつくといつきは溜息を吐いた。
「…今日は残業だべ」
ずりずりと少年を引きずりながらソファまで歩くとソファに少年を圧迫しないようにぐるりと自分の体の前に持って行くとソファに座った。










金髪の少年───芥川慈郎は何処でも眠れる少年である。
今日も今日とて寝ようと思って寝る場所を探していたらちょうど学食が目に入った。
「んー…今日は此処にするCー」
フラフラと学食の中に入って行き隅っこのクーラーがよく効いている場所に腰掛けて目を閉じた。
外の木に遮られてあまり日が差さない場所でしっかり温度調節がされた場所。
芥川の中でこの場所はいい昼寝スポットになっていた。
若干揺れたような気もしたけどきっと気のせいだろうと思いながら。
気がつくとソファの上に寝かされていた。
丁寧にタオルケットまで掛けられている。
「こんなソファ、あったっけ…ふあ」
欠伸をしながらキョロキョロと周りを見た芥川は自分より小さな銀髪を上で結んだ女の子──いつきが忙しなく動いているのが見えた。
料理をしているらしいその様子にお腹が空いてきた芥川は後ろからいつきに抱き着いたのだった。
「んー…Eー匂いだCー…」
いつきの手元から香る香辛料の匂いに頬を緩めながら抱き着いたまま声を発す。
「なっなっ何だべ!?」
「羊のお肉、食べた…Eー……ぐう」
戸惑いの声を上げたいつきに自分の要望を告げて芥川は再び眠りの世界に落ちていったのだった。










「ほらっそろそろ起きるだよ!」
ゆさゆさと揺さ振られる感覚に芥川は少しだけ目を開いた。
「眠Eー…」
「駄目だべ!もう学食閉めなきゃなんねえだから早く起きるべ!」
声を荒げられ芥川は渋々目を開けた。
「やあっと起きただ」
一仕事終えたとばかりに額を拭う動作をしたいつきに芥川は首を傾げた。
「あれー、君って…えーと…誰だったっけ」
「……おめえ、忘れっぽいってよく言われねえだか?」
「Nーどうだったろ……」
「…………まあいいべ。とにかく、学食はもう終いだ。早う帰ってけろ」
雪だるまの刺繍がされているエプロンを外しながら言ういつきに寝る前のことを思い出した芥川は声を上げた。
「あーっ!さっきの女の子だCー!」
「い、いきなりなんだべ!?」
「さっき俺が抱き着いた子だよね!俺、芥川慈郎だCー!」
きゃっきゃっとはしゃぎながら自己紹介する芥川にいつきは少し引いていた。
「いきなりテンションが高いべな…えーっと、芥川でいいだか?」
「駄目!名前で呼んで欲しいCー!」
「じゃあ慈郎でいいべ?」
「うん!」
キラキラとした目でいつきを見る芥川にいつきは苦笑混じりにエプロンを棚に仕舞って鍵を掛けた。
「オラは知ってるかもしれないかもしれねえだけど雪野いつきっていうべ」
「うーん…俺、学食来たことなかったから分かんないや。ごめんね!」
「学食に来たことないだか?それじゃあ仕方ないべ」
実際は一度顔を合わせているのだが芥川は寝ていて、いつきは顔を上げなかったので全く知らないのだ。
そんなことに気づかない二人はほのぼのと話す。
「あ、じゃあさじゃあさ!羊の肉ってある?」
「羊?メニューにはあるだよ、でもあんまり注文する人はいないべ」
「嘘、羊の肉あるの!?じゃあ俺明日食べに来る!」
羊の肉のメニューがあると聞いてテンションが上がった芥川はそう言うと手を振りながら学食を出て行った。



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