学食のアイドル
 

「いらっしゃいませだべ!」
氷帝学園高等部学食。
中等部と連なっている位置にある此処にはある種のアイドルがいる。
「いつきちゃーん!」
「わわ、ちょっと待つだよ。もうちょっとで出来るだ」
パタパタと忙しそうに頼まれた料理を用意する、上で二つに結んで三編み状になった銀髪を揺らす少女。
名前を雪野いつき、この学食で働く女の子である。
「Aランチを一つ」
「あ、了解だべ!今用意してくるけろ!」
注文を受けて厨房に注文内容を伝えるいつきを見ながら、彼らは言う。
「やっぱりいつきちゃんは俺らの癒しだよな」
「萌えー萌えー」
…特別こういった人達にモテやすかった。
「最近何だか注文が多くなったべ」
注文が一段落着いて一旦休憩してると食堂の入り口が騒がしいことに気が付いた。
「……?何かあっただか?」
厨房から出て来て近くにいた男子生徒に尋ねると、彼は軽い口調で教えてくれた。
「男子テニス部のレギュラーが来てるんだよ」
「男子テニス部レギュラー…?って、よく噂になってるやつだか?」
「そうそう、いつきちゃんは見たことないの?」
「うーん…オラはあんまり学校の方には顔出さねえからなあ。基本的に食堂にいるから来たことあるやつの顔しか分かんねえべ」
話してるとその男子テニス部レギュラー達がこちらに来るのが見えたいつきは話をしていた男子生徒にお礼を言って厨房に戻った。
「…あんま興味ねえべ」
前世の記憶があるいつきにとって武士だった人達の顔立ちが整っていたのを思い出し、興味が沸かなかった。
どうせなら青いお侍さんがいればいいけど…なんて思ったりもしたけどすっかり前世に対して未練がないいつきはまあ良いやなんて考えている。
「おい、Bランチを頼む」
「分かったべ」
顔も見ずに返事をしてBランチを用意してると視線を感じていつきは顔を上げた。
「…?どうかしただか」
「いや…」
泣き黒子のある相手に首を傾げたものの気にしないでいるとその後ろの生徒達からざわめきが聞こえた。
「あの跡部の顔を見て何も思わない…!?」
「俺、夢見てんのかよ侑士…!」
「アカン、俺疲れとんのかもしれんわ」
「…………ぐう」
そんな声を無視していつきは注文されたBランチを用意して渡した。
「………何だべ?」
「お前…名前は何だ」
「雪野いつきだべ」
「雪野、か…………おいお前らさっさと行くぞ」
泣き黒子の男子生徒───跡部景吾はランチを片手に立ち去った。
「何だったんだべ?あれ」
意味が分からない跡部の行動に首を傾げながらもいつきは再び仕事へと戻った。










「ふあー…ポカポカしてて眠くなるだよ」
昼休みも終わり食器を洗いながらいつきは欠伸をした。
いつきの体つきは15歳だとは思えないほど貧弱である。
別にご飯を食べないという訳でもないのに低い身長に小さな胸はいつきの気にしているところである。
「昔もそうだったけんど、流石にこんなつるぺただったら嫌だべ…」
はあ、と溜息を吐くといつきは食器を殺菌用の機械の中に入れた。
「そもそも牛乳だって飲んでるのに、世の中って不公平だべ!」
食器洗いが終わり少し休憩しようと厨房の中にある椅子に座りいつきは置いてあったペットボトルの水を飲んだ。
「本当に便利な世の中だべ…昔は水一つ飲むのだって汲んできたり雪を溶かしたり大変だったのに」
暫く座っていたあと気合いを入れ直しいつきはテーブルを拭き始めた。
いつきの年齢的に、この氷帝学園で働いているのは可笑しい。
そもそもいつきは氷帝学園との関連性は全くといっていいほどなかった。
中学校を卒業してすぐに拾ってもらったのだ。
家庭事情で高校に通えないと分かっていたいつきからしてみれば渡りに舟だった。
中等部の食堂は豪華で更に校舎が連なっていたので使用する人が初等部から高等部までいたのだ。
それに比べて高等部の学食はそこそこ豪華ではあるものの中等部の食堂より食堂内も料理もグレードが落ちる。
それを何とかしようと画策していた教師陣がいつきに目を付けたのだ。
公立の中学校に通っていたいつきだったが家庭科の成績は5(他は平均的だった)、なおかつ見た目的にも整っているので花になる。
高校に進学せずに就職するなら調度良いということになったのだ。



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