自由思想家の彼女と僕
 

市が席替えをして、ジャッカルと隣の席になって一週間。
すっかりジャッカルと仲良くなっていた。
「この部分が分からねえんだけどよ…」
「これは……蠍の今の心情を抜き出して答えるの…」
「ああ、成る程な。サンキュー、市」
傍から見れば兄妹のような、恋人のような二人である。
しかし本人達はただ気が許せる友人と話をしているだけで、周りからの反応に気づかないでいた。
「ううん…そういえば、今日の体育…男子はバスケよね……?」
「ん?そういやそうだったな…女子は何だったか?」
「バレーボールよ……」
ぽつりぽつりと話す市に気を悪くした様子もなく相槌を打つジャッカルは、近づいて来るダブルスパートナーに気づいた。
「おい、ジャッカル」
「丸井、何か用か?」
「腹減ったから何か菓子くれぃ」
「またかよ!」
手をスッと差し出した丸井ブン太にビシッとツッコミを入れるジャッカルを横目に次の授業の準備をする市。
そんな市に気がついた丸井ブン太が笑顔で話し掛ける。
「なあなあ、お前菓子持ってたらくれよぃ」
「……持ってないわ…」
目も向けずにノートに前の授業のまとめを書き込みながら言えば、少し驚いたような声を出す丸井ブン太。
「ジャッカル、こいつ面白いな!」
「あー…市はあまり周りに興味がないから俺らの事知らねえんだ」
ウキウキとした声色に顔を上げて、市はじっと見つめる。
赤い髪を見てぼんやりと思い浮かぶのは紅蓮の若虎。
「…虎さんみたい」
「は…?」
不思議そうな顔をする丸井ブン太から目を逸らし、ノートを仕舞う。
「もう…休み時間が終わるわ……」
「げっ、マジかよぃ!?」
慌てた様子で駆け出した丸井ブン太は教室の入り口でくるりと振り向く。
「俺は丸井ブン太。シクヨロ☆」
「……織田市よ」
どうにも苦手なタイプだと感じながら市は答える。
正直なところシクヨロの意味は全く分かっていないし、自己紹介するほどの仲でもないのにと疑問を感じる。
しかし、もう丸井ブン太の姿はとっくに見えなくなっているし、教師も来ていた為考えるのを止めて授業へと集中した。











昼休みになり、市は弁当を持って立ち上がる。
既にジャッカルの姿もなく、あんなにも人気を寄せられていた幸村精市も姿が見えない。
(まだ…お昼休みは始まったばかりなのに…いつの間に……)
内心首を傾げながら中庭へと向かう。
その最中、幸村という名に妙な既視感を感じてどこで聞いたのかと考えを巡らせる。
どれだけ考えても分からなかったので、気のせいかと思い中庭の花壇を眺めながら弁当へと手をつける。
「…ご馳走さま」
最近引っ越してきたばかりの市には友人と呼べる程親しい同性の友はいない。
むしろ作ろうとはしなかった。
昔は居たような気もするけれど、思い浮かばないからただの勘違いだろう。
納得していた市の頭に何かが当たる。
「……?」
足元には先程までなかったポッキーの箱。
封を開けた後もない。
「何処…から……」
何の気無しに上を見上げると見覚えのある赤い髪と、驚いた表情のジャッカルが見えた。
「あ…ジャッカル……」
手をひらひらと振れば何処か唖然とした表情で手を振り返すジャッカル。
そして……。
「おっ…俺のポッキーイィィィぃ!」
そう叫んだかと思えばいきなりバタバタと音を起てながら赤髪が消える。
「…どうしたのかしら………」何故か分からずに首を傾げて上を見つめれば苦笑気味にジャッカルが口を動かす。
『わりい、今丸井がそっち行った』
「…丸井さん、って…だあれ?」
興味のない事は忘れる市はキョトンとした様子でジャッカルを見つめるが、足音に気づいて上を見るのを止めた。
「ポッキーっ…」
余程急いできたのだろう。
服が乱れているのを気にせず、丸井ブン太は近づいて来る。
「……はい、ポッキー」
そんな様子に降ってきたポッキーを渡して、弁当を持って歩き出す。
「おっ、サンキュー織田!」
「…どうして市の名前…知ってるの………?」
「は…嘘だろぃ!?」
さっき名前教えただろぃ!?と声を上げる丸井ブン太に首を傾げる。
「市、知らない…」
そう言った瞬間、丸井ブン太は肩をがくりと落とした。
「丸井ブン太!もうぜってー忘れるなよぃ!」
「うん…丸井さん……」
釘を指すように言う丸井にこくりと頷き、名前を復唱する。
「それじゃあ…市、行くね……」
「あっ、待てよぃ」
そんな市に声を掛けて、ポッキーの箱を開ける丸井。
ここで、普段の彼なら有り得ない行動に出る。
それはいつも共にいるジャッカルが「これは夢だ…いや、幻覚だ……」と呟き目を擦るくらいに。
「ほら、やるよぃ」
ポッキーを一袋、投げ渡したのだ。
「…ありがとう…ポッキーなんて初めて食べるわ…………」
ほんのり頬を染めながらお礼を言う市は、丸井に負けず劣らずの発言をする。
「拾ってもらった礼だし仕方ねえ」と考えていた丸井をフリーズさせるくらい、有り得ない発言だった。
「いっ…今、なんっつったよ…?」
「? …市、ポッキーを初めて食べるの……」
というより、和菓子以外は殆ど食べた事がない。
勿論、ポッキーなどのチョコレート菓子ですらも食べた事もない。
そう考えながら答えれば、丸井に腕を掴まれる。
「お前…それは勿体ないぜぃ!」
そう言われてもどうしようもないと思いながら、市はぼんやりと丸井が話すお菓子の話題を流しながら相槌をうった。



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