救い上げてくれるのはいつだってお前
 

「ジャッカル先輩!織田先輩見ませんでしたか?」
「え、あー…確かさっき図書館に本を返しに行くって出てったな」
「マジっスか!じゃあ入れ代わりで戻って来たら俺が探してたって言っといてくださいよ」
ダッと駆けていく赤也。
俺はそれを微妙な気持ちで見送った。
――最近市はテニス部のレギュラーと共にいることが多くなった。
それ自体はいいこと、なんだけど…市は騒がしいのを好まないらしい。
中学生のときとは違い、あからさまなイジメなどはないがやはりレギュラー陣が美形であることは間違いない。
だから、いつも騒がしいのだ。
少なくとも俺や真田、柳はあまり騒がれないんだが。
…仁王やブン太のファン達は凄まじいものを感じる。
主に嫉妬とかの負の感情で。
時折嫌になるくらいにギンギンに睨まれてる感覚になる、んだよな。
「…まあ、市だから心配はいらないかもしれないけどな」
案外周りに受けがいい市のことだから、平気だとは思う。
「いざとなったらテニス部が動くよな、主に赤也とかが」
親友だし俺だって何とかしようと動く。
あいつはテニス部とか関係なしに話し掛けてくれるやつだし。
…いや、むしろこうして隣の席にならなきゃ絶対話すことなんかなくて高校卒業してる気がする。
それだけ市は無頓着なんだ。
周りに興味がないとかそんなレベルじゃ終わらないくらいに。
泣いてるやつがいると親身になって助けたりするやつだから、悪いやつって訳でもねえ。
でも、自分が辛い目に合っていても全て自分のせいだと背負い込んでしまう性格だって俺は知っている。
赤也のときだってそうだ。
赤也の為にと動いて、自分を犠牲にしているところがあったように思う。
市のあの黒い手にしたってそうだ。
人から外れた力は使うだけで大きな代償を払うんじゃないのか?
俺達が中学生だった頃、赤也にしてしまった仕打ちを市にもしちまってるかもしれない。
そう考えると、俺は堪らなく怖い。
例え代償を今は払わなくても、昔その代償を払ってしまっていたら。
これから払うのだとしたら。
ふと考えることがあるんだ。
市は俺を優しいと言うのかもしれない。
でも、俺自身はそう思えねえんだ。
優しいなら、市のことを利用するようなことなんてしないだろ?
赤也を助けてもらって、それも俺達は最後に立ち会わせただけで。
気付きもしなかった。
赤也じゃなくなってたことなんて。
悔しかった、他のやつがどう思ってるかとか関係なしに。
今まで一緒にいたのに気付いてやれなかったのが悔しくって、悲しかった。
「ごめんな、赤也」
直接言う勇気もないけど、俺は一言呟いた。
何かが変わる、訳でもねえけど。
「ジャッカル、教室にいたのかよ。腹減ったんだけど何か持ってねえ?」
「俺かよっ、いい加減俺に頼んの止めろよ」
「んー、無理」
「即答か」
突然教室に入って来たブン太。
…俺はパシリじゃねえからな?
「で、何か持ってんのか?」
「クッキーならある、けどよ」
「よっしゃ、くれ」
俺が取り出したクッキーを取るとブン太はそれを食べ始める。
「…ジャッカルは食わねえの?」
「あー、いや俺は…」
「えい」
「むぐっ」
口に突っ込まれた。
…クッキー、じゃねえよな?
「ブン太、これ……」
「ブン太様特製ケーキだぜ。どう、天才的だろぃ?」
ニッと笑いながら言うブン太。
「…ありがとな」
「はあ?何訳分かんねーこと言ってんだよ、余ったから偶然だっての」
ブン太がケーキ余らせる訳ねえだろ。
…いつもブン太はそうだよな、俺が落ち込んでたりするとこうやって自然に励ましたりしてくれる。
それで俺は凄い救われてる気がすんだ。
お前が親友で良かったぜ、ブン太。
「やれるだけ、やれば良いんだよな」
市のことでこうやって考えんのを、止めよう。
市にそれは失礼だよな。
「ジャッカルの癖に生意気言ってんなよ?ま、特別にクリームパンとメロンパンで手を打ってやるけどな」
シニカルに笑いブン太は俺の肩を叩いた。
…って、結局それかよ!



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