策謀と契機をただ待ち侘びる
 

俺のデータは正確である。
確証が出来るまでは正確に書き込むということをしないからだ。
それ故に織田市のことはつい先日からデータを取り始め、ページは名前以外が殆ど空白だった。
「…ふむ、彼女のデータは隠されているのか?」
此処まで調べていて分かったのはデータとして記録はするものの、些細なことだ。
身長、体重…これは流出させないように暗号を用いて書くが。
あとは気になる記述が一つのみ。
家族構成は父と母、そして存在しない兄。
存在しない兄とは、戸籍上だけの存在である。
―――織田信長。
かの有名な『鳴かぬなら 殺してしまえ 不如帰』という言葉を残した有名な武将の名前と同じ名前だ。
ただ不自然な空きがあるその戸籍は名前以外は何も書かれてはいない。
そんなものが紛れていることは本来あってはならない。
ならば何故そのようなものが存在するのか。
それを調べてはいるものの、一つとして情報が出て来はしない。
織田が情報を隠しているようには見えないから、恐らくは第三者の手によって。
一人で先の見えない鬼ごっこをしているかのような感覚。
手掛かりすら掴めてはいない。













「こんばんは、柳さん…」
「ああ、このような夜中に会うとは思わなかったな」
今は夜の10時過ぎ。
…出歩くには出歩く時間ではあるが、確か織田の家からこの場所は離れている筈だったが。
「市も柳さんに会うとは思わなかったわ……」
その言葉は本心なのだろう。
ぼんやりした織田の様子からは掴めないがな。
「あのときは赤也を気に掛けてくれて助かった、礼を言わせてくれ」
「ううん…気にしなくて、いいのに……」
柳生から礼をしても否定されたと聞いていたからな…この言い方でないと織田は礼を受け取りはしないのだろう。
あくまでも、赤也の件については手助けをしただけだと言い張るのだから。
「……ああ、そういえば織田。聞きたいことがあったんだが。聞いてもいいか?」
ふと思い出したかのように俺は尋ねる。
「…? 市に分かる範囲なら……」
「すまない、助かる」
この機会を逃せば質問することは殆ど無理になるだろう、と俺は口を開く。
「織田には兄がいるのか?」
「…にい、さま?」
織田の瞳が動揺で揺れる。
…何故、こんなにも織田は。
「今の、市には兄様はいないわ……」
「………そうか、変な質問をしたな」
本当のことだろう、と俺は特に追求をすることなく話を終える。
「それじゃあ、市…もう行かなきゃいけないから……」
「ああ、時間を取らせたな。ありがとう」
織田と別れ、俺は質問したときの織田の様子を思い浮かべる。
…織田は、あのとき怯えていた。
恐ろしいと、訴えていた。
そして、『今の市には兄様はいない』という発言…ああ、疑問は増えていくばかりだ。
織田についての疑問は尽きない。
第三者によって隠された個人情報、いる筈のない兄、そして…あのときに織田が見せた二面性。
これら全てに納得のいく答えは出るのか。
…正直なところ、この疑問が解決するときが来るなど考えもつかない。
それと同時に、頭の何処かでは全てが明らかになると核心しているのだ。
そのときがいつなのか、それは分からない。
だが、そのとき俺はその場にいるのだろうと感じた。



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