通知、
 

『……、市先輩助けてくれません?』
市の元に来た連絡はそんなものだった。
「…財前、さん?」
市はその連絡に首を傾げた。
自分の知る財前光は簡単に人に助けを求めるような性格ではなかったからだ。
そのことに戸惑いを感じながら市は口を開いた。
「どうかしたの…財前さん……?」
『……何や、変なんですわ。まるで俺が俺やなくなる、みたいな…』
「財前さんが財前さんじゃなくなる…?」
いつもの電話とは違う、低く何かを抑えるような財前の言葉に市は考え込んだ。
「………、市今からそちらに行くわ…」
夜中ではあるものの、市の力を使えば行けないことはない為そう告げると市は電話を切った。
準備をしながら、市は黒い手を使って切原達立海の面々へと連絡を入れる。
カチカチと市以上に簡単に携帯からメールを送信した黒い手は準備の終わった市に手を伸ばす。
「お願いね……」
そっと黒い手を撫で、市は身を委ねた。




















「ええっ織田先輩大阪に行ったんスか!」
格ゲーをやっていた切原は携帯に届いていたメールに気づいて驚きの声を上げた。
「あー…何か嫌な予感しかしねえし俺も大阪に行って、」
ピリリリ。
急に鳴る携帯に、切原は肩を揺らした。
「も、もしもし」
『あ、赤也?赤也のところにも来たよね、織田さんからのメール』
「幸村部長、着ましたけど」
『あれね、後を追って大阪に行くの禁止だから』
「は!?て、何で知って……」
『何となく、赤也なら行きそうだしね』
「……たまに幸村部長が心の中が読めるような気がしてならないっス」
『アハハ、やだなあ赤也。心の中なんて読める訳ないだろう?』
「あー…そっスね」
これ以上追求してもごまかされるだろう、と切原は口を閉じた。
『…………それに、大阪に行ったら大変なことになりそうだしね』
「んあ、何か言いました?幸村部長」
『ふふ、早く寝ないと明日の朝練遅刻するよ』
「げっ…そうでした!お休みなさい幸村ぶちょー!」
『お休み、赤也』
携帯を切り、幸村は人知れず溜息を吐いた。
「本当に、何なんだろうねこの胸騒ぎは……」
市からのメールを見た瞬間、幸村の胸の内に妙なモヤモヤが膨れ上がった。
市も何処かしら俗世離れしかけているからか出会った当初から不思議な感覚はあったのだが。
だからこそこうして高校に上がるまで市のことは夢だったのだろうと考えていたのだ。
「…よく考えたら、あんなにも長い間花が散らない訳ないのにね。あのときは俺も冷静じゃなかったのかな」
そっと押し花にしてある彼岸花を撫で、幸村は目を閉じ過去へと思いを馳せる。
思い返すことはもうないだろうと思っていた、2年前を。
















場所は変わって大阪。
市は大阪城のある場所へと降り立った。
「……調度いい目印がなかったから、仕方ないけれど…あまり来たくない場所ね………」
ぽつりと呟き、鞄を片手に市は歩き出す。
目指すは四天宝寺高校、財前達が通う高校である。
まだ夜ではあるが一度見ておきたかったのだ。
何が起きているのか、それが分からない以上は様子を見なくては何とも言えないから。
「…これ、は」
市は高校の前に立ち絶句した。
此処まで澱んでしまうものだったろうか、空気は。
学校という場は様々な生徒達が来るからいろいろな思惑によって不思議な空気が出来上がっている場所だ。
なのにそんな気配は一切なく、ただただ澱みきった空気が市の頬を撫でるだけだった。



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