つかの間のカンショウ
 

切原が自分の体へと戻って二日過ぎ、市は切原と行動し始める前の生活に戻っていた。
「市、この方程式なんだけどよ…」
「これは、この間習った…公式を利用するの……」
「サンキュー、市」
ジャッカルと勉強をしながら、市はお茶を一口飲んだ。
「おっだセンパーイ!」
後ろから叫びながら市へと飛びついた切原。
「もー会いたかったっスよー!てか聞いてくださいよ、俺今回英語の小テストで半分越えたんスよ!」
「凄いわ…赤也……」
「へへっもっと褒めてくださいよ先輩!」
すっかり懐いた切原は周りの目も気にせずに市にくっついたままである。
「…へえ、赤也。俺には何の報告もないんだ?」
「……え、ゆゆ幸村部長…!」
幸村の言葉に冷や汗をかきながら、切原は僅かに後ずさった。
「勉強見たのは俺と蓮二と弦一郎なのになー」
「すんません幸村部長!」
慌てて謝る切原に更に笑みを濃くする。
「えーどうしよっかな」
「別に悪気はなかったんスよっ」
「じゃあ今日のメニューを二倍やってくれたら許すよ」
「そ、そりゃないっスよ部長!」
笑顔で言い放たれた言葉に切原が叫ぶ。
「え?」
「……何でもないっス」
すぐさま黙殺され、切原は不満気ながらも黙った。
「…仲がいいのね………」
市が何処か感心したように言うと、ジャッカルが小さめの声で言った。
「…いや、多分違うと思う」
「そう…なの?」
きょとんとした顔で言った市に微妙に困った顔になるジャッカル。
以前と変わらないとまではいかないものの、平和な日が訪れたことだけは確かだった。

























「ふ、はは…っああ、愉快ですよ〈お市様〉…。流石信長公の妹君で在らせられる」
カツン、カツン。
不健康な肌の色をし、銀の長髪を揺らしながら嗤う男。
「信長公がいないのは残念ですが…代わりに〈お市様〉を頂くのも悪くありませんねえ…ククッ」
自らが連れて来てやった少女の魂を見ながら舌なめずりをする男。
「退屈凌ぎの余興にとあのワカメ頭の身体に死んだ魂を憑依させましたが…まさか〈お市様〉に巡り合えるとは思ってもみませんでしたよ…」
至極楽しげに、獰猛に、歓喜に、そしてある種の哀しみを含む目で男は市を見続ける。
「巡り合わせとは残酷なものですねえ…〈お市様〉も私も、出会いたい方とは巡り合わずに互いが巡り合ってしまいましたからね……」
くつり、くつり。
男の嗤う声だけが響き渡る。
「……次はどのような余興を見せていただけるのでしょうね、〈お市様〉」
カツン、カツン。
再び歩み始める男。
……ふと、振り向き歪つに嗤った。
「私としたことが忘れていましたよ……貴女はもう、用なしですから」
さして興味もなく言う男は、少女の魂を切り裂き、狂ったように笑いながら歩き去った。



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