詐欺的論法
 

俺は少し前から違和感を感じていた。
「…はあ。何かおかしい、のう」
気分が乗らずにコートが見える位置に来て、俺は足を止めた。
相変わらず女子が周りで応援をしている。
いつもなら気にならない応援ですら煩わしく感じて俺は自主休憩を取ることにした。
…真田や幸村が後で煩いだろうがそこは詐欺師、上手くかわしちゃる。
そんなことを考えながらコートの裏手にある、コートを見晴らせる(勿論向こうからは見えんとこ)に足を進める。
どちらにしろ俺はテニスが好きなようじゃの。
そんなことを考えながら、目的の場所に辿り着くと誰かがいるのが見えた。
「(…先客がいたんか)」
結構穴場であるこの場所を知っているのは俺と丸井、それに赤也(と参謀)くらいなもんなんじゃがのう。
仕方なく足を止めてそいつを見つめた。
見たことがない、女子。
…こんだけ綺麗な顔しとったら間違いなく噂になってておかしくない筈。
けれど今まで見かけたことは殆どなかった。
…いや、一度だけ見たことがある。
合同で体育をやったとき、バレーボールが頭に当たって幸村に保健室に運ばれとったやつじゃ。
けどあいつが何で此処に……?
疑問に包まれた俺は暫くその場でそいつを観察することにした。
―――興味があった、それは当たり前じゃ。
あの幸村が自ら保健室まで運んだ。
それもただのクラスメートを。
それだけでも気になる存在ではあった。
そんなことを今まですっかり忘れていた、思い出した今は何で忘れとったのか分からんくらいに。
「――切原さんの、居場所…市が取り戻すから……」
聞こえてきた言葉に俺は思考が停止した。
それは最近感じていた違和感である後輩の名前が出て来たからだ。
「…あんまり聞き取れんの」

くあ、と欠伸を一つして俺は近くの木に寄り掛かった。
「……ぴよ、」
立ち去った織田を見送り、俺はゆっくりと織田がいた場所まで来てコートを見た。
前と変わらないその風景にやはり違和感を感じながら、俺は寝転がり目を閉じた。





























次に織田を見掛けたのは屋上。
また独り言を言っているときだった。
「ううん…市が嫌だっただけだから…」
入って来て沈黙したかと思うとまた、一人で誰かに話し掛けるように話す織田。
「切原さん、昨日言った憑依について覚えてる……?」
切原。
やっぱり織田は赤也に話し掛けとるんか。
見えんちゅうのは不思議、やけどな。
テニスコートの方を見れば真田に叱られている赤也がおったが、やっぱり赤也によく似た別人としか思えん。
「そう、見た目を切原さんと同じには変えたら問題になるからそこまでは出来ないけれど……」
憑依などと話を続けている織田に俺は視線を移した。
……どう見ても一人でブツブツ言っちょる変なやつにしか見えんそいつに声を掛けてしまったんは好奇心からじゃった。
話せば話すほど『織田市』っちゅう存在を遠く感じ、分からんようになっていった。
その独特な佇まいを感じて離れ難くなっちょるのも事実じゃが。
ともかく、俗世離れとでもいうのか。
織田は思った以上に変わっていた。
赤也の為に奔走し、動いてくれた織田を問い詰める気はなか。
ただいつか、織田が俺達に自分のことを話してくれるのを待っとる。



前へ 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -